◆会合前に意見調整や方向性の根回しをするのが常態化

2013年名古屋市営地下鉄・六番町駅で起きた超高濃度のアスベストが飛散する事故をめぐり2016年12月12日、同市が開催した事故の健康影響を調べる検討会は意見書を発表。この飛散事故によって駅利用者に中皮腫などのがんが増えるリスクは「環境目標値を下回っていた」との“安全宣言”を出した。しかし、検討過程の透明性がないまま示された結論を手放しに信頼できるだろうか。(井部正之)

2013年12月12日に1リットルあたり1100本(総繊維濃度)を記録した際の試料採取のようす(名古屋市資料より)。同じ試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で再分析したところ、同7万本超(総繊維同等で3100本)だった。

2013年12月12日に1リットルあたり1100本(総繊維濃度)を記録した際の試料採取のようす(名古屋市資料より)。同じ試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で再分析したところ、同7万本超(総繊維同等で3100本)だった。

本サイトに9月13日付けで掲載した拙稿で、市側が1年あまりも 六番町駅アスベスト飛散にかかる健康対策等検討会(座長:那須民江・中部大学生命健康科学部教授)に報告をおこたってきた7万本超という分析データが存在することを指摘した。

これは事故当日の12月12日午前9時15分から測定したもので、総繊維濃度で1リットルあたり1100本、うち700本がクロシドライト(青石綿)との分析結果を示した試料の一部を改めて透過型電子顕微鏡(TEM)で分析し直したものだ。7万本超という分析値は通常の分析では計数しない細かいアスベスト繊維まで含めたものだが、総繊維濃度の測定と同等に調べたところ3100本との結果が得られている。

アスベストの調査や分析に詳しく、過去にいくつもの健康リスク調査に専門家としてかかわってきたNPO(特定非営利法人)、東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏は前回紹介した拙稿でこの測定値をこう評価した。

「過去のリスク評価は(アスベスト以外の繊維を含む)総繊維濃度で実施されており、アスベスト濃度の700本/リットルだけを採用すると過小評価になるおそれがあります。一方、3つの測定値は相関がわからないだけで、いずれも正しい測定値です。ですから、700~3100本まで幅を取るべきではないか」

市交通局営繕課の濱田祥孝課長にこうした件や安全率について尋ねたところ、「検討会の委員からそういった意見がでれば、当然そういったことも考慮にいれていく」と明言していた。

10月24日に開催された検討会で上記の測定値はようやく市から報告された。この測定値について、久永委員は「参考値として採用してもよいのではないか」と発言した。会合で反論はでなかった。にもかかわらず、事務局の市側はこの指摘を無視した。

この件だけでなく、重要な事項がいつの間にか無視されたり、あるいは知らない間に決まっていたり、毎回会合を傍聴しているだけではよくわからない決定がこの検討会ではいくつも存在した。

市交通局に聞くと、あいまいな回答だったり、議事録や資料をみるよう促されるが、それらを散々眺めても、いつ誰がどのような決定を下したのかわからないままいくつもの事項が決まっているのである。たとえば、上述した「空白の時間」において濃度上昇がないとする考え方が採用されたことや、アスベスト除去作業の開始から2時間程度でアスベスト濃度が最大となる濃度上昇モデルの採用、そして今回のTEMによる分析値3100本と安全率の不採用などである。
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