イラク・モスルを掌握したイスラム国(IS)は、独自解釈のイスラム法(シャリーア)に基づく統治体制を固めていく。宗教警察による道徳や風紀の取締りは、社会生活の隅々にまで及んだ。「私はイスラム教徒ですが、彼らの統治は時間が経つほど、宗教とかけ離れたものになっていった」と話す、モスル大学教員、サアド・アル・ハヤート氏(47)。インタビューの3回目。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)

ISは独自解釈したイスラム法を布告し、社会を統治していった。喫煙などの軽微な罰は鞭打ち刑となり、強盗は死刑、窃盗罪は手の切断と細かい規定によって処罰された。(モスル・2016年・IS映像)

◆社会風紀や道徳から服装まで指示
ISは女児を除くすべての女性に対し、黒いヒジャーブの着用を義務付けました。のちに男性には、あごヒゲを生やすことも求めらるようになります。次第に様々な規則がいくつも作られ、ズボンの裾の高さも地面から15センチ以上の短いズボンをはくよう強制されました。彼らが言うには、「イスラム法ではそう決まっているから」ということでした。町のあちこちで宗教警察(ヒスバ)が巡回し、監視していましたので従うしかありませんでした。

当初はヒゲについては厳しい規定はなかったが、のちに男性はあごヒゲを生やすよう布告が出された。時間の経過とともに、様々な規則が増えていった。(IS出版機関ポスターより)

イラク軍とISの戦闘が続くモスル。前線では砲撃や銃撃の音が響き、黒煙があがっていた。
(2017年2月末モスル市内で撮影:玉本英子)


◆公開処刑
モスルで多くの公開処刑が行なわれていたことは知っています。市場の近くとか人が集まるような場所で毎日のようにありました。ISは盗みを働いた者の腕を切り落としたり、スパイとみなした者を斬首していました。私は見たくなかったので、そういう場所には近づきませんでしたが、鞭打ちされる男性を見たことがあります。革のような硬い鞭で叩かれていました。タバコを吸った罪ということでした。モスルでは「同性愛の罪」として男性を高いビルから突き落としていました。どのようにそういう人たちを探して摘発したのかは分かりません。ISはウソをついているかもしれないですから、処刑された人が同性愛者だったかどうかもわかりません。

これはISはモスルを制圧して間もない頃に公表された映像。宗教警察(ヒスバ)が市内を巡回し、礼拝の時間には商店を閉めてモスクに礼拝へ向かうよう指示してまわった。道徳・風紀への統制は徐々に厳しくなっていく。(モスル・2014年・IS映像)

モスルをはじめIS支配地域の街頭に掲げられる看板。「着衣の裾を上げよ」「アッラーを畏れよ」とある。預言者ムハンマドの時代の伝承をもとに、ISはズボンの裾の長さを規定し、男性住民の着衣に適用した。(モスル・2016年・IS映像)

モスル市内を走る宗教警察(ヒスバ)の車輌。(モスル・2016年・IS映像)

車内からマイクを使って路上の住民に指示を出す宗教警察(ヒスバ)。礼拝の時間にはモスクに行くよう指導したり、服装の乱れを取り締まる。(モスル・2016年・IS映像)

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