戦場のトラウマが子どもにも影響

戦場から「無事に」戻り、再会を喜びあう家族であっても、問題はつきない。兵士は、戦場での経験のために、自らの親しい人たちにも深刻な影響を及ぼす。対人関係において重大な攻撃性を見せる可能性は、過去一年以内に戦場に派遣された兵士の場合の方が、派遣されなかった兵士に比べて大きい(5)。配偶者への暴力について、軍人と民間人とを統計的に比較すると、とくに深刻な虐待は軍人の場合の方が多い(6)。

親が帰還し、ふたたび一緒に暮らすことは、子どもにとってはまた新たな環境への適応を迫られることを意味する。親の帰還は、子どもたちが親の不在の間に担っていた責任から解放されるという側面がある一方で、自分で判断し行動していた自由を失うことでもあり、精神的なストレスともなる。

親が心身に傷を負っている場合はなおさら、子どもの困難は大きくなる。親がトラウマに苦しむ姿を見て、同じような症状を発症する(二次的トラウマ化)こともある。二次的心的外傷の症状は、第二次世界大戦・ベトナム戦争の帰還兵やホロコーストの生存者の子どもにも見られる。3~4歳の子どもが、親と同じように、飛行機やヘリコプターの音に反応してベッドの下に隠れたり、悪夢にうなされたり、死傷することを恐れたりする(7)。

親に必ずしもPTSDの症状がなくとも、無関心、無感情といった症状は、子どもとかかわる意力も、交わりを楽しむ能力も低下させ、子どもとの関係性の質が下がる。子どもは、親が幸福でないのは自分が悪いからだと、自分を責めてしまう。親から肉体的・精神的に虐待される場合も少なくない。親からの低い評価を内面化させてしまうこともある。さらに、この子どもたちは、友人関係を構築したり維持したりすることが難しい。(続く)

(1) Deborah Ellis, Off to War: Voices of Soldiers’ Children, Groundwood Books/House of Anansi Press, Toronto/Berkeley,2010, p.59.
(2) 調査対象となった家族には、結婚してない親、将校、両親ともに兵士である家庭は含まれていない。Deborah A. Gibbs, Sandra L. Martin, Lawrence L. Kupper, and Ruby E. Johnson, “Child Maltreatment in Enlisted Soldiers’ Families During Combat-Related Deployments,” The Journal of the American Medical Association, Vol. 298, No. 5 (August 1, 2007), pp. 528-535.
(3) 宮西香穂里「従軍する日本人妻」青弓社編集部編『従軍のポリティクス』(青弓社、2004年)、191~214頁参照。
(4)  Angela J. Huebner et al., “Parental Deployment and Youth in Military Families: Exploring Uncertainty and Ambiguous Loss,” Family Relations, 56 (April 2007), pp. 112-122.
(5) その割合は派遣の期間が延びると高くなる。派遣されない場合と比較して、三カ月以内の派遣では比較的軽い虐待は0.79% 、3~6カ月で1.76%、6~12カ月の派遣では4.76 %に増加する。激しい虐待では、それぞれ15.8%、26.4%、34.9%の増加が見られた。1990年から94年に行なわれた2万6935名の男女の家庭をもつ兵士を対象にした調査による。James E. McCarroll, “Deployment and the Probability of Spousal Aggression by U. S. Army Soldiers,” Military Medicine, 165, 1: 041 (2000), pp. 41-44.
(6) 夫から妻への虐待のうち軽い虐待については民間人と軍人に大きな差はなく、ともに約10%であるのに対して、深刻な虐待についてはそれぞれ0.7%と2.5%。Ibid., p. 44.
(7) PTSDのあるベトナム帰還兵を親にもつ子どもが受けるさまざまな影響については、Aphrodite Matsakis, Vietnam Wives: Facing the Challenges of Life with Veterans Suffering Post-Traumatic Stress (Baltimore: The Sidran Press, 1996), pp. 228-277ほかを参照。

<「被害者」としての米軍兵士たち>記事一覧

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