
裁判所の書庫から見つかった供述調書にはザルミーナの顔写真が貼られていた。私が見つけた唯一の写真だった。(2002年撮影:玉本英子)
取材も終わりに近づいたある日、夫の兄にあたる叔父が一枚の警察調書のコピーを見せてくれた。
調書の隅にはコピーのインクでつぶれたザルミーナの顔写真がある。
ザルミーナの写真は存在しないときいていたが、叔父の元にコピーが残っていたのだ。
裁判所にいけば本物が残っているかもしれない、と叔父が教えてくれた。
私は再び裁判所に行き、警察調書を探した。
そして、ほこりだらけの書庫からザルミーナが夫を殺した容疑で逮捕されたときに作られた調書を見つけ出すことができた。
調書には逮捕時に撮影された顔写真が貼ってあった。
白黒写真のピントがすこしぼやけてはいたが、それはまぎれもなくザルミーナの顔だった。
30代には見えないほどまだ若く、大きな瞳と魅力的な唇をもった女性だった。
小さな顔写真を見つめながら、私は彼女の短かった人生に思いを馳せた。
カブールの北はずれの墓地にザルミーナの墓はある。
墓石に名前は刻まれていない。
盛った土の上に、それが女性の墓であることを示す横向きの平たい石が立てられているだけだ。
彼女は夫以外の男性に心と体をゆるし、したがうべき存在の夫を殺したとして死刑となった。
ザルミーナを処刑したのはタリバン政権だ。
しかしそれを彼女に突きつけたのは、一族の名誉を汚す者に対して死をもってまでも償わせるアフガンの社会そのものだったのではないか。
彼女の墓を見つめながら、私はそう感じた。
涙がこみあげてきた。
強い風が私の頬をつたい、涙をぬぐった。
舞い上がった砂塵が、つむじとなって広い墓地を吹きぬけていった。 (了)【玉本英子・アジアプレス】
(14・最終回)裁判所で見つけた警察調書と顔写真 写真2枚
(13)娘の最後の日 写真3枚
(12)競技場での公開処刑 写真6枚
(11)カブールの売春婦たち 写真4枚
(10)女子刑務所で 写真5枚
(9)タリバンは巨大な悪なのか 写真4枚
(8)タリバン支持の村に暮らす次女 図と写真3枚
(7)長女が語った意外な言葉 写真4枚
(6)遺された子どもたち 写真6枚
(5)札びらを切る外国メディアの姿 写真4枚
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