ドイツの公共放送ZDFが13年に製作した国民的戦争ドラマ『ジェネレーション・ウォー』にも、「記憶の編み直し」の要素がある。たとえばドイツ軍占領下のウクライナに赴いた従軍看護師の女性が、占領地の女性との不幸な出会いからこの戦争の意味に気づくエピソードがその一つ。支配-被支配の関係の中で言語が持つ意味を、小道具としてうまく使っている(これもDVDで観られる)。

支配された(占領された)側から同じ課題を追求しているのが、中国映画『南京!南京!』(陸川監督)だ。虐殺事件直後の南京を舞台に、日本兵と中国人を共に「人間」として繊細に描きながら、両者の間にある絶望的なディスコミュニケーションを描く。東アジアの戦争映画史に残る傑作であるのは間違いない。日本ではDVDは出ていない(出せない!)が、YouTubeなどで断片的な映像だけでも覗いてみてほしい。

20世紀の歴史的記憶を自民族・自国民だけの物語として語る時代は世界的に見ても終わっていると思う。「あの戦争」の現場には、日本人の姿だけでなく、日本が武力で占領した地域があり、力ずくで動員した他民族の人々の姿があったはずだ。そろそろ、これまで見えなくされてきたそうした他者の「顔」と出会う作品、彼らがこちらを見返す視線を含む「記憶の編み直し」を行いながら戦争や植民地を描く日本映画を観たい。いや、問われているのは映画だけではないだろう。【加藤直樹】

加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。
【書籍】 九月、東京の路上で ~ 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 

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