一方、他の民主国家の政府と比べて、日本政府の態度・対応が異なるので驚いているのだという。

特別手続に関する行動規範(人権理事会決議5/2)は、加盟国がすべての情報を適時に提供し、特別報告者からの通報には過度の遅延を伴わず応答して協力するよう要請している。政府は公式訳を迅速に作成して提供し、書簡の質問にきちんと答えるべきである。

書簡から3か月たった8月21日付で外務省ジュネーブ代表部が回答を送り、外務省のサイト(※4)にも公開されている。例えば、裁判や国会ではこれまでプライバシーを侵害する不当な捜査が繰り返されてきたことが指摘されているが、書簡でとりあげられている監視捜査など捜査のあり方についての懸念や捜査機関に対する監督機関の必要性に関しては「他の犯罪の捜査と同様、刑事訴訟法等の法令に従い、適正に行われる」というのみである。そして、カナタチ氏の批判や懸念については「批判は全く当たらない」と繰り返えし、とてもカナタチ氏が納得するとは思えないものである。

イギリスの「エコノミスト」誌は、日本は国連からの提言や批判を攻撃のように受け止めて、公に総理大臣が反論したり、担当大臣が面会を拒否したりと、反応が他国に比べて過剰であると論評しているが、筆者の周りの国連関係者も同様の印象を受けているようだ。

特別報告者は国際人権基準に基づいて締約国に警鐘を鳴らすのであり、基盤のない個人的な意見を述べているのではない。プライバシーの権利は世界人権宣言12条や市民的・政治的権利に関する国際規約(自由権規約)17条に、そして表現の自由は世界人権宣言と自由権規約の19条にそれぞれ規定されている。日本は規約の締約国としてこれらの人権を保障する義務がある。特別報告者の勧告は締約国がよりよく人権義務を実施するための指針となるものだ。「友人」からの耳の痛い提言にどれだけ真摯に対応するか、その態度や行動の成熟度が、国際社会での評価にもつながるのではないか。(了)【藤田早苗】

※4 外務省HP「国連人権理事会『プライバシーの権利』特別報告者の指摘に対する回答」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/is_sc/page24_000896.html

<<<(1)日本へのメッセージとは何だったのか?  藤田早苗
<<<(2)日本政府のダブルスタンダード  藤田早苗

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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。

 

※訂正します。 文中、カナタチ氏の発言にあった「恐ろしいよりも酷い(worse than scary)」 を「ジョージ・オーウェルが『1984』で想像した全体主義ディストピアの何よりもひどい。」に訂正しました。(2022/8/18)

 

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