「国は除斥待ち」か?

厚労省は労災保険の受給者名簿など、該当者をある程度絞り込めるいわば「被害者リスト」に近い資料を持っているが、直接被害者に知らせてこなかった。そのため2016年3月以降、被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(小林雅行会長)などがたびたび個別に周知すべきと要請。その際、国による周知が不十分なことは認めていながらも、同省は「誤解や混乱を招く」などと拒否し続けた。

そのため「家族の会」などから「除斥になったらどうするんだ」「国は除斥待ちとしか思えない」と批判されていた。

2014年12月に国が「周知徹底に努める」との和解条項に合意したことから、「家族の会」事務局の片岡明彦氏は「2014年12月の和解以降の除斥は国に責任がある。それ以降に除斥になった人は全部(賠償の)対象にすべき」と指摘する。

3年前に実施されているべき「個別周知」が遅れたことによって請求権が失われた以上、国に責任があるとの主張である。本来すべきことをしてこなかったのだから当然の指摘といえよう。

ところが、厚労省はそもそも今回の個別周知の対象から除斥になった約150人を除外している。

こうした指摘に対し、厚労省はどう考えているのか。前出・橋口補佐に見解を聞いたが、「現段階では対応することはない」の一点張りだ。

担当レベルで判断できることではない以上、こうした回答は仕方がないことではあろう。だが、まったく対応できないという話ではないはずだ。

たとえば同じ厚労省の問題である薬害B型肝炎被害をめぐっては2015年3月に20年の除斥期間が経過した被害者についても対応すると国と原告・弁護団は基本合意した。翌2016年に特別措置法により確定させており、病状に応じて50~900万円の給付金が支払われる。

片岡氏は「国はきちんと周知してこなかった以上、除斥だから払いませんというのはおかしい。少なくとも個別周知がきちんと終わるまでに20年の除斥というべきではない」と厚労省の姿勢を批判する。

今回厚労省が被害者に個別周知することが「異例の対応」と報じられてきた。過去に工場などでアスベストを吸って中皮腫などを発症した“泉南型”の健康被害をめぐっては、ほかの健康被害による国賠訴訟と違い、国側が「被害者リスト」に近い情報を持っていながら、この間きちんと周知してこなかったことが問題なのだ。

片岡氏はこう訴える。

「この間除斥になった人や、今日除斥になる人をどうするのか。知らせてないのに除斥というなんてどう考えてもおかしい。非常に深刻な問題だと訴えたい。そうした人に対して、厚労省や裁判所は無理というだろうが諦めず、まず被害者団体に相談して欲しい」

国は泉南訴訟の最高裁判決後に「周知徹底に努める」と約束している以上、そうした経緯をふまえた誠実な対応をする必要があるのではないだろうか。

【合わせて読みたい記事】
<アスベスト国賠>被害者2300人超がいまだ国の賠償未手続き
<アスベスト国賠>「3年遅れ」でようやく被害者に通知へ
<アスベスト対策>大阪・堺市長選で両候補がアスベスト対策条例の「検討」約束

★新着記事