在日帰国者2世のキョンミさんが中国で生んだ娘のキルファ。2000年8月延辺朝鮮族自治州にて撮影石丸次郎

2000年8月、五カ月ぶりに朝中国境取材に赴いた私は、すぐに気になるキョンミさんの家に足を伸ばした。キョンミさんの家には、隠れ住んでいた黒龍江省中部の村から、リョンホさんが三度転がり込んできていた。黒龍江省の村に中国公安の捜索が入り、これ以上いられなくなったのだという。

キョンミさん夫婦、リョンホさんとも私を歓迎してくれたが、五カ月前より一層家の空気は険悪だった。難民2世として中国で生を受けたキルファも、もう2歳半。自由に歩き回り、言葉も発するようになっていた。だが、無国籍状態であることに変わりはなかった。

家の中の雰囲気は殺伐としていたが、何もわからないキルファの笑顔だけが場を和ませてくれた。憮然として部屋の隅に座っているリョンホさんも、「アバイ(おじいちゃん)、遊ぼう」とキルファに言い寄られると、途端に相好を崩してしまう。

キョンミさん夫婦の言い争いにキルファが割って入ると、二人ともぴたりと口喧嘩を止める。この家族にとってキルファの存在が緩衝材になっているのは間違いなかった。父と夫は不平不満をすべてキョンミさんにぶつけていたらしい。口数は少ないが、明るい働き者のキョンミさんの表情にやつれを感じた。

ビデオでインタビューしたい旨を夫のヨンギさんに告げ、キョンミさんとリョンホさんを人気のない山の畑に連れ出した。草叢に腰掛けると、普段はもの静かなキョンミさんが、カメラがあるのも忘れたかのように、吐き出すように喋り始めた。

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