71年にジョン・レノンが発表した曲「ハッピークリスマス(戦争は終わった)」は、ベトナム戦争反対を訴える曲だった。写真はISの襲撃から命懸けで逃れたヤズディ教徒の子どもたち。多くが家族を殺された。(2014年9月シリア北部で撮影・玉本英子)

ジョン・レノンはこの時期、アメリカに住み、反戦運動に積極的に深くコミットしていた。変化を求める人々を励ます「power to the people」「give peace a chance」といった曲は、運動の中で広く歌われた。暴力と支配のない平和な世界を歌った「imagine」もこの頃だ。FBIは、アメリカ政府を批判する彼の動向を監視していた。

71年の「ハッピークリスマス(戦争は終わった)」は、そんな中で発表された。ベトナム戦争はまだ続いていた。「war is over,if you want it」という歌詞にある「war」は、一般論ではなく、第一に眼前のベトナム戦争だったのである。

こうした背景があるので、私はどうしても「ハッピークリスマス」を単なるチキン売り出しのBGMとして聴き流せない。意味が強すぎて、そして、にもかかわらず意味もなく流されているのが、苦痛なのである。イラク戦争や、その後、自衛隊がイラクに派遣されていた時期はなおさらそうだった。

今もそうだ。朝鮮半島では今、アメリカと北朝鮮の間で軍事的緊張が高まっている。日本もまた、アメリカや中国に北朝鮮への圧力強化を訴えることでこの事態の当事者となっている。来年、情勢がどう展開するか。それは誰にも分からない。万が一、戦争となれば、朝鮮半島を中心に多くの人の命が奪われることになる。繰り返すが、日本もその当事者だ。果たして来年の年末、私たちはどんな思いで「ハッピークリスマス(戦争は終わった)」を聴くことになるのだろうか。

加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。

【書籍】 九月、東京の路上で ~ 1923年関東大震災ジェノサイドの残響

★新着記事