◆年間1000人前後が安楽死のスイス

スイスは安楽死を認める国のひとつとして知られる。現地の報道によると2015年スイスでは、ドイツなどからの希望者も含めておよそ1000人が亡くなった。国内死亡者の1.5パーセントにあたる。シャンタールさんは「ほう助自殺」をサポートする団体と何度もやりとりを重ねたうえで、意志が確認された。ゆえに、本人が強く希望したとしても簡単に認められるものではないということだった。

亡くなって1週間後、地元の教会でお葬式が行われた。ヨーロッパでは個人の生き方が尊重されるといわれる。しかしスイス人の親族は、動揺し、納得できずに苦しんでいた。「止められなかったのが悲しい」と、おいは語った。彼の母親はシャンタールさんの妹にあたる。母が気落ちして病気にでもなるのではないかと心配している。

これまで紛争地域で取材をしてきた私は、現地で殺された人たちを見てきた。みんな生きたかったはずだ。だから私はシャンタールさんの選択には納得できないのが正直な気持ちだ。一方で彼女が病でどれほど苦しんだのかを考える時、私自身、答えを出すことができないでいる。(玉本英子)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2017年12月12日付記事を加筆修正したものです)

★新着記事