1998年10月元山市で撮影された映像を見ると、街中が殺伐としいているのが伝わってくる。

所在なげに路上に座り込んだ軍人の眼付が鋭い。撮影アン・チョル(アジアプレス)

<【連載】北のサラムたち>記事一覧

中国で天安門事件が起こり、ソ連・東欧では自由を求める民主化運動のうねりの中で共産党一党独裁体制が次々と倒れていった。次は北朝鮮か、と多くの人が注目してきたが、反政府行動の情報は、噂以上に精度の高いものは北朝鮮からまったく聞こえてこない。なぜなのか?

この点について、私とドンミョンは何度も議論を繰り返した。ドンミョンの結論を単純化して述べると、表だった反政府活動が無風状態なのは、北朝鮮の他に類を見ない恐怖政治と情報統制のせいだ。北朝鮮の情報統制の厳しさは旧ソ連や旧東欧諸国、中国の比ではない。

「よちよち歩きを始める頃から、託児所で金日成と金正日の革命歴史だけを教える。ラジオもテレビも雑誌も金父子賛美一色だ。世界はどう動いていて何が起こっているのかなんて、口コミ以外に知る由もない。公式見解以外のことを知ろうとしただけで政治問題化するんだから、知ろうとしないほうが身のためだ。だから何もコトは起こらない」

ドンミョンは言う。コトを起こすためには、北朝鮮内部にいる人民の意識を覚醒させることが何より急務だ、というのがドンミョンなりの結論だった。

「今や韓国はアジアの中では金持ちの国になり、同じ社会主義を標榜する中国も改革開放政策の進展で、飛躍的に豊かで自由になった。ただ北朝鮮の人民だけが飢え、騙されている。それを早く知らせなければならない。それこそ北朝鮮民主化のために今もっとも必要なことだ」

とドンミョンは興奮気味に力説した。そして、とんでもないアイディアを披露したのである。

続きを見る…

<【連載】北のサラムたち>記事一覧