
闇市場の露天食堂でビニール袋にそばの残り汁を乞う少年。1999年夏、茂山郡にて撮影キム・ホン(アジアプレス)
「身内が飢え死にしたのに、何が金日成万歳、金正日万歳だ!」
「今の北朝鮮は誰かが火を点ければ、一気に燃え広がるような空気なんです。今日、食うものがない、身内はバタバタ死ぬ、かといって解決の方法がわからない。皆やけっぱちになってだんだん怖いものがなくなってきた。皆、誰かが火を点けるのを待ち望んでいるような雰囲気なんです。『早く南(韓国)と戦争をやったらいい』なんて、子どもでも当たり前のように言うようになった。俺も、軍隊が反乱でも起こしたらいいと思うようになっていましたから」
八方塞がりの北朝鮮社会に、誰かが風穴を開けてくれないだろうかという、一種の英雄を待望するような空気が蔓延している、吉林省延辺のアパートで同居していたもう一人の北朝鮮難民アン・チョル、こうは言うのだった。
「君が火を点けて英雄になったら?」
冷やかしのつもりで私はそう言った。するとチョルは、
「俺が?」
と言って、キョトンとした表情をしばらく凍らせた。その日からというもの、チョルは口癖のように、「なにかデカいことをしたいなぁ」と言うようになったのだった。