◆給料・配給停まる

貿易会社の営業不振は、当然、従業員の待遇悪化となる。A氏が続ける。

「私が調べたほとんどの貿易会社では、社長と経理と警備員だけが出勤しており、貿易指導員と呼ばれる職員たちには仕事がない。給料はもちろん、米や食用油などの現物支給も出なくなっていた。それで中国から入ってきた雑貨などの運搬などで凌いでいた。ただ、労働者の人員整理や会社の閉鎖はまだないようだ」

両江道や平安北道でも同様だと、別の取材協力者B氏は言う。B氏は中国に鉱物を輸出してきた鉱山には、生産を止めている所もあるとして次のように述べた。

「両江道にある銅や亜鉛の鉱山は、中国に輸出できず採掘がほぼストップしている。労働者たちには給与は出ていないが、食糧配給はまだ出しているようだ」

無残に廃墟となった平安北道の青水化学工場。2017年7月、中国側から撮影石丸次郎

◆軍が油なく牛車で運搬

経済制裁の影響がもっとも敏感に現れているのは燃料だ。石油類の厳しい取引制限を予見したのだろう、北朝鮮当局が2017年4月に国内での販売統制に乗り出すと、ガソリン、軽油の市場価格は二倍に暴騰。今年1月末にはガソリン1リットルが最高値の約270円になった。(=アジアプレス調べ。2月に入って急落し約170円になった)

燃料費の高騰は、軍隊や庶民暮らしを直撃している。軍隊では国家からの燃料供給がまったく足らず、秋の収穫が終わった農場に、ジャガイモやトウモロコシなどを受け取りに行く車両が手当できないケースが続出しているという。両江道に住む協力者C氏は、

「本来は旅団の補給担当の『後方供給所』が車両を用意して農場から食糧を持って行くのだが、燃料不足のため、木炭車や牛に大八車を引かせて持って行った」
と説明する。

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