■デマで人が殺された関東大震災

最悪の事例は、1923年(大正12年)の関東大震災時の朝鮮人虐殺だ。「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という流言が広がる中で、ごく普通の人々や軍の一部が数千人ともいわれる朝鮮人を殺害した。事態を悪化させたのは、内務省や警察が流言を拡散してしまったことだった。この事件については、内閣府中央防災会議の専門調査会がまとめた「1923関東大震災【第2編】」(http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1923_kanto_daishinsai_2/index.html)に詳しい。この報告は、虐殺事件から学ぶべき教訓として「過去の反省と民族差別の解消の努力」と並んで「流言の発生」への警戒を挙げている。

95年も前の話ではないかと思う方もいるかもしれない。だが、差別デマがマイノリティーへの暴力に至った事例は古今東西にある。近年では、2005年にアメリカ南部ニューオリンズを襲った水害の際、黒人たちが略奪や強盗を働いているというデマによって被災者の救援が遅れ、さらには白人の自警団が道をゆく黒人に無差別に発砲するといった事態が起きた。人数は分からないが、死者も出ている。

米国のデジタルメディア「VICE」がYou Tubeにアップしているドキュメント番組には、東日本大震災の際、中国人窃盗団が暗躍しているという流言を真に受け、鉄パイプなどで武装して石巻に入ったという右翼団体のリーダーの証言が出てくる。

差別デマから実際の暴力までの距離は、決して遠くないのだ。災害によって命を落としたり負傷したりするのではなく、その後の差別デマによって誰かが犠牲となるような事態が、実際に起きてからでは遅い。国や自治体の防災行政の中に差別デマへの対応をしっかりと位置付けるべきだし、そのための議論を始める必要があるだろう。

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