第1作『ゴジラ』のポスター(復刻版)

日本の戦後史を映画『ゴジラ』で紐解く連載の第3弾。

1954年に公開された『ゴジラ』の第一作。突如島を襲った謎の巨大怪獣に放射能の痕跡を発見した古生物学者・山根恭平博士は、国会の公聴会でそのことを報告するが……。(伊藤宏/新聞うずみ火)

◆女性に参政権 時代映す

公聴会でゴジラについて山根恭平博士の説明が終わった後、与党議員と思われる大山委員(男性。そして周囲は全て男性議員)が「委員長、委員長」と発言を求め、「ただ今の山根博士の報告は誠に重大でありまして、軽々しく公表すべきでないと思います」とした(周囲の議員は拍手)。それに対し、野党議員と思われる小沢委員(女性。周囲は男性議員が混じってはいるものの女性議員中心)は、「何を言うか。重大だからこそ公表すべきだ」と反論する(周囲の議員は「そうだ、そうだ」「その通り」と賛同)。

すると大山委員は「黙れっ」と一喝し、「というのは、あのゴジラなる代物が水爆の実験が生んだ落とし子であるなどという……」と言いかけるが、すかさず小沢委員は「その通り。その通りじゃないかっ」と応酬する。それを睨みつけた大山委員は「そんなことをだ。そんなことを発表したら、ただでさえうるさい国際問題が一体どうなるか……」と続ける。小沢委員は「事実は事実だ」と声を上げる。大山委員がそれに構わず「だからこそ重大問題である。軽率に公表した暁には国民大衆を恐怖に陥れ、ひいて政治、経済、外交まで混乱を引き起こし……」と発言したところで、たまりかねたように小沢委員は立ち上がり、「バカ者。何を言うとるかっ」と叫んだ。

その後は、「バカとは何だ。バカとは」「謝罪しろ」「事実は堂々と発表しろ」と与野党の議員の罵声が飛び交い、公聴会は騒然となる。「ご静粛に願います」という委員長の呼びかけも虚しく、公聴会は大混乱となり、その様子を見た山根博士らは失望したように目を伏せるのであった……

小沢委員の「バカ者」という発言は、映画『ゴジラ』が公開された前年の「バカヤロー解散」がモチーフになっているとされる。19532月の衆議院予算委員会で、吉田茂首相が社会党の西村栄一議員との質疑応答中、「バカヤロー」と発言したことがきっかけとなって衆議院が解散された。この時、吉田首相は小さな声で「バカヤロー」と呟いたのみで、それを偶然マイクが拾ってしまったために騒ぎが大きくなったというのが実態だ。

吉田首相はすぐに発言を取り消したものの、この失言を議会軽視の表れとした社会党は、「議員としての懲罰事犯」に該当するとして懲罰委員会に付託するための動議を提出するまでになった。度重なる暴言や失言を繰り返しながら、場合によっては発言を取り消すことすらしない安倍首相が、何ら咎めも受けず政権を運営し続けている現在からは考えられないことだ。

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