中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が開催した2017年6月24日の集会で建築物石綿含有建材調査者協会の小坂浩理事が講演中に示した2010年度以降の環境省調査におけるアスベスト飛散データ。漏えい率はじつに49パーセントに上る

◆欧米に40年遅れの日本

こうした手法はイギリスやアメリカでは1970年代から労働安全衛生法制で義務づけられてきた。しかし、日本では無視され続け、30年遅れの2006年4月に努力義務となり、40年遅れの2016年6月ようやく義務化された。

ところが、おかしなことにアスベストは規制対象外となっているのである。外山氏はそうした異常事態について冒頭で紹介した居酒屋ではリスクアセスメントが必要なのに、アスベスト除去では不要となっていると指摘したのである。

極論ではあるが居酒屋もアルコールという化学物質を多数扱う職場であり、リスクアセスメントが必要となる。だが、安衛法の禁止物質はリスクアセスメントの対象から外され、各物質の規定に従うことになる。アスベストについて規制している石綿則では作業時の測定やリスクアセスメントが義務づけられておらず、結果として規制上では居酒屋業務のほうが、監視が厳しいことになる。

なんともおかしな話ではあるが、それだけ日本のアスベスト規制がデタラメだということだ。

「英国ではレベル1や2(の作業)ではつねに監視です。つねに測って、すぐ結果がわかるようにしている。現場でのリスクアセスメントが20世紀後半から世界中で実施されるなかで、石綿則だけが外れている」

そう外山委員は指摘し、アスベスト関連作業におけるリスクアセスメントを義務化して導入する必要性を訴えた。その際には作業時のアスベスト飛散そのものを低減して、曝露を極力減らす英国などの手法を採り入れることも必要だと述べた。

作業時におけるアスベスト濃度測定の義務やリスク評価をすべきとの外山委員の意見に対し、反対意見は出なかった。規制強化に反対姿勢を取ることが多い委員も質問はしたが、最後には「それで進めてもらったらいいと思います」と賛成した。

◆懸念される改修・解体の被害

労働安全衛生上もっとも多くの死亡者が出ているのがアスベストだ。欧米ではそうした認識のもと規制や監視を強めてきた。ところが、日本ではそうした国々から数十年遅れの状況が続いている。労働現場でアスベストの曝露量を調べ、その低減を図る努力すらしないのでは、今後もアスベスト被害は減らないだろう。周辺への漏えい防止についても同様だ。

アスベスト除去業者から「除去現場でちょっとひどい現場だと空気1リットルあたり数十万本(のアスベスト飛散)なんてざらですよ。これ、いくら防じんマスクが99.9パーセント以上除去してくれるといってもすごい吸っていますよね。マスクずれたりなんてのも珍しくないですし。俺たちも危ないってことですよね」とのため息混じりの嘆きを何度も聞いている。

かれらはこうもいうのだ。

「いろんなところでアスベスト除去やっているけどひどい工事だらけで飛散しまくりですからね。除去が始まったら行政は現場に来ないし、やりたい放題ですよ。きちんと規制して罰則を強化して、厳しく取り締まって実際に厳罰を与えて、そういう業者に退場してもらわないと除去現場の外でも被害は出続けますよ」

以前にもヤフーニュースやアジアプレス・ネットワークの拙稿「<アスベスト飛散問題>分析技術者に聞く(下)~「除去工事の49パーセントで飛散」と環境省委員が衝撃報告」で報じたが、実際に除去工事における周辺へのアスベスト飛散は多く、過去7年間で、空気1リットルあたり1本超で外部に飛散していた事例はじつに49パーセントと約半数に上ることが環境省調査(2010~2016年度)で明らかになっている。同省は事前に許可を得て測定日を通告したうえで実施しており、実態はもっとひどいはずだ。ほとんど“アスベスト飛散大国”といってよい状況である。
現状厚労省における規制強化は届け出義務の拡大程度でお茶を濁す程度になりそうな気配が濃厚で、アスベスト除去などの作業中における測定義務が法的に位置づけられるかどうかすら不透明だ。だが、それでは労働者の被害も改修・解体現場周辺の被害も防げない。

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