◆日本政府は記念式典に特使を派遣すべきだった

三一運動記念式典で演説した文在寅大統領は、三一独立宣言を引用しつつ、そして三一独立宣言がそうしたように、日本人にこう呼びかけていた。

「過去は変えることはできませんが、未来は変えることができます。歴史を鏡にし、韓国と日本が固く手を結ぶ時、平和の時代がはっきりと私たちの側に近づいてくるでしょう。力を合わせ、(「慰安婦」などの)被害者たちの苦痛を実質的に治癒するとき、韓国と日本は心が通じる真の親友になることでしょう」(翻訳:コリアンポリティックス)

私はこの一節は理念として間違っていないと思う。本来であれば、日本政府はむしろ、100年の節目となる今年の式典に特使を派遣し、植民地支配の否定を前提に両国関係を築きたいという基本姿勢を示すべきだった。個別の事柄については、また翌日から議論すればいいではないか。

現在のことを現在だけの短いスパンで考えると往々にして道に迷う。ときには歴史の長い道程のなかで、私たちが今、立っている場所を相対化し、確認する必要がある。日韓の人々の関係は、この100年でどのように変化してきたか。報道が統制された100年前とは違い、私たちはインターネットで三一独立宣言の全文を読むことができる。記念式典での文在寅大統領の演説全文も読める。ぜひ読んでみてほしい。

[全訳] 第100周年3.1節記念式 文在寅大統領演説(2019年3月1日)

三一独立宣言は日韓両国の「真正なる理解と同情にもとづく、友好の新局面」を呼びかけていた。日本の先人たちのもとについに届かなかったこの呼びかけを、100年後の今、多くの人が心をもって受け取ってくれればと願う。そこには、これからの日韓両国を「友好の新局面」へと進めるためのヒントがあるはずだ。

※「三一独立宣言」の訳文は山辺健太郎『日本統治下の朝鮮』岩波新書、1971年から

加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。

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