◆ミャンマー軍事政権の「民政移管」が停戦のきっかけだが

KNUの内部ではこの「民政移管」の前後から停戦を推し進める勢力が力を伸ばした。その結果、停戦推進派のKUNが一気にテインセイン大統領と和平に向けて合意することになった。しかし、「カレン軍:KNLA(カレン民族解放軍:Karen National Liberation Army)」は長年、実際に武器を持って最前線で闘ってきたこともあり、ビルマ族至上主義を進めてきた国軍への不信感を払拭するには至っていない。

2016年にアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が政権に就くと、その停戦和平協議は、これまで以上に前進するかに思えた。だがここにきて、その協議は足踏み状態が続いている。ミャンマー政府の事実上のトップはスーチー氏であるが、安全保障や治安に関しては国軍が実権を握っており、停戦・和平の進み具合は国軍の意向を無視できない状況があるのだ。

ミャンマーに近いタイの町に立つ、カレン民族の「革命記念日70周年」を祝う看板。軍政期にはテロ組織として糾弾されていた「カレン民族同盟(KNU)」。今やタイ側でもおおっぴらにその存在が認められている。(2019年1月末撮影・宇田有三)

◆ “135”の民族を持つミャンマー和平交渉している少数民族は一部のみ

ミャンマーには政府発表で、”135”の民族集団があると言われている。だが、政府と和平交渉している少数民族は実のところ20~30の民族である。停戦・和平に関して、政府の側には2つの立場が存在している。その1つは、国民の間で幅広い支持を得ているスーチー氏(NLD)の率いる現政権であり、もう1つは国軍の存在である。少数民族の側にも、大きく分けて停戦グループの少数民族(カレン民族など10勢力)と非停戦グループ(「ワ」やカチン民族・シャン民族など10~15グループ)の2つがあり、それぞれの民族の思惑が和平に向けて交叉している。

いわば、<少数民族(停戦)+(非停戦)>→[対話]←<NLD政府+国軍> という図式で話し合いが進められている。

カレン民族同盟(KNU)の総司令部近には革命70周年に備えて式典会場も整備された(2019年1月末カレン州にて撮影・宇田有三)。

ミャンマー問題で、「ロヒンギャ問題」は複雑な問題だと言われているが、この少数民族の問題はそれを上回る複雑さを含んでおり、その全体像をつかむのは極めて難しくなっている。

そんな中、少数民族の1つで、最強を誇る「カレン民族同盟(KNU)」が今年1月末、自らの支配地域で「革命70周年の記念式典」を開いた。(つづく)

★新着記事