◆日本への漂流多発で恥かいた金正恩氏が命令

昨年までと比べて、日本やロシア海域にやってくる北朝鮮漁船に大きな変化が現れている。昨年まで、好漁場の「大和堆(やまとたい)」付近で操業する北朝鮮漁船の多くは、7~13人乗り程度の小型の木造船だった。

儲かるイカ漁に参入しようと、民間人が金を集めて船を作り、漁具やエンジン、燃料を自己調達し、漁労に従事する船員も独自に契約・募集して海に出る。ただし、北朝鮮では「純民間」というのはあり得ない。軍や党などの権力機関に金を払って傘下企業という看板を買う。

ところが、この木の葉のような小型漁船は、相次いで事故を起こして日本沿岸に漂着した。船からは無残な死体が数多く見つかり、世界中で報じられた。

体面が傷ついた金正恩氏は、昨年11月に直接指示を出した。小型船が遠洋に出るのを制限し、特定の機関傘下の漁船だけに出漁を認めた。監督兼救援のための監視船も多数送り出している。漁船が韓国に逃げるのを防止するという意味もあった。8月に北朝鮮の警備艇が日本の官船に銃を向ける事件があったが、その任務は僚船の監督と救援だったはずだ。

今回、衝突して海に投げ出され救助された人は60人に上ったという。船は沈没してしまったが、おそらく中規模の鉄船で、軍など権力機関の傘下の水産事業所に直属する船だったと思われる。全員が救助されたというのは幸いであった。(石丸次郎)

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