霧社の皇軍兵士 -1 (柳本通彦)

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植民地支配下にあった台湾から、戦争に駆り出された20万人以上の軍人軍属たち。彼らを切り捨てた日本のあり方を問う。

「私は日本のために戦った」
植民地支配下にあった台湾の人たちも、日本人と同じように、あるいはそれ以上に太平洋戦争の渦の中に巻き込まれた。そして多くの人たちが動員され、日本の陣営に従軍した。軍人軍属だけでもその数二十万以上、未帰還者五万人にのぼっている。しかし今に至るまで、日本政府は僅かの弔慰金のほかに、かれらにいっさいの補償をおこなっていない。このシリーズは、戦争に動員され、「日本のために戦った人々のいま」を紹介する。

                     
霧社事件記念日に慰霊祭に参加した遺族たち。
蜂起した先住民の鎮圧に向かう日本軍隊。
霧社事件の日本人犠牲者の墓。戦後撤去されていまはない。
霧社にある抗日記念碑。1953に地方自治体によって建立された。

霧社の皇軍兵士-1
※棄民の里の皇軍兵士
 秋とは思えないような新緑の山々をバックに乙女たちの赤い裾がまばゆい。澄み切った真っ青な空は、標高1000mはあるここでも遥かに高い。

 10月7日の早朝、わたしは台湾中部・霧社の仁愛農業学校の運動場にいた。周辺に点在する各部落を出てきた地域住民が三々五々集い、年に一度の郷民運動会が始まったところである。

目の前では、リズミカルな音楽とともに真っ赤な民族衣装をまとった少女・少年たちが現代風にアレンジした山地の群舞を披露している。

仁愛郷には、13の村落があり、うち3つがブヌン、残りがタイヤルおよびセイダッカ。3つの民族が集った会場は、異様な熱気に包まれており、日本ののどかな村民運動会とは様相を異にする。 部落ごとの入場行進のあとに漂う緊張感の中で、わたしは1930年の今日も、ここ霧社では運動会が開催されていたことを想起せずにはいられなかった。台湾神社の祭典を祝い、山地原住民、日本人、平地の台湾人らが官民そろって参加する恒例の地域最大の行事であった。

 ちょうど、「君が代」の斉唱が始まろうというその時、日本の植民地統治に反対したセイダッカの精鋭約200余名が運動会場になだれ込み、15歳以下のこども62名を含む130数名の日本人と2人の台湾人を殺害した。

2日後に霧社に入った日本の救援隊は運動場、宿舎に折り重なった多数の首なしの死体を発見し慄然とする。台湾史上に名高い霧社事件の勃発である。

そのあと、日本総督府は、数千の軍と警察を動員して鎮圧に当たり、蜂起した先住民1000名を死に至らしめる。生き残ったのは、300名に満たなかった。 今日は、早朝からすぐそばの霧社事件記念碑前で亡くなった先住民の慰霊祭が行われ、人びとはそのままこの運動会場に流れて来た。慰霊祭において蜂起の首領モーナ・ルダオの孫たちの手で点火された聖火が、メインスタジアムから次々に繰り広げられるプログラムを見つめている。 ‐‐しかし、この運命の日にわざわざ運動会を重ねるというのはどういう意図なのであろうか。事件の際には、今日ここに集った民族同士、血で血を洗う戦いを演じているのである。そのわだかまりは半世紀以上を経た今でも完全に消えてはいない。

 毎年、この日に台湾政府は簡素ながらも慰霊祭を催してきた。この日が来るとわたしは、よくこの慰霊碑前にでかけた。数年前までは、ほかに誰も日本人が参加していないことが多かったからである。一人ぐらい、隣の運動場(今は電力会社の敷地になっている)に幼い一生を終えた子供たちに、そして山に眠る 1000名の先住民の霊に手を合わせる日本人があってもいいのではと考えたのである。 わたしが初めてここを訪れたとき、降りるところがわからず、まごまごしているわたしに、バスの中の、明らかに漢民族とは異なる山の人たちが、口々に日本語で指示してくれた。降り立った「町」はひと目で見渡せるほど小さく、老人たちは今でも日本語交じりの言葉を話していた。

 この平和な里でかつて本当に、1000人以上の命が奪われるような惨劇が起きたのか。いかにしてこの穏やかな民と日本人が、お互いの民族を抹殺しあうような最悪のジェノサイドに至ったのか‐‐。

台湾中部・霧社は、きょうもまた薄い靄の中にある。 

   連載・第2回>>>




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