3月30日、中米のドミニカ共和国が中国と国交を結び、台湾と断交したというニュースが伝わった。これで台湾と外交関係を持つ国は26か国となった。
これも「選挙後遺症」のひとつだが、「選挙症候群」という病名が、投票日の十日ほど前から囁かれていた。精神科・神経科を訪れる患者の中に、不眠、イライラあるいは鬱、そして選挙のことを考えると気が狂いそうになるという人が急増したというのである。島を真っ二つに割ったムラの選挙。亀裂は、職場・家庭にも及んでいる。
正確なデータはわからないが、投票日前後2週間に、私の知りうる限り、ショック死、自殺未遂がそれぞれ数名ずつはいた。さらに今は、「選挙後症候群」と名称を変えて、その症状は慢性化しつつある。まさに尋常ではない。
私の通っているスポーツクラブ。昼間に行くと、おじちゃんとおばちゃんばかりで、彼らの会話が楽しみのひとつである。誰かが選挙のことを口にすると、年配のおじいさんが怒り出し「ああ、いやだ、いやだ、もうテレビなんか見るのはやめようや」。周りから「そうだ、そうだ」の相槌があがる。
ヒステリーの患者を増やしたり、選挙後の混乱を長引かせたりした責任の一端は、テレビが負っているといって過言ではない。この狭い島に5つもニュース専門局があって、24時間ニュース映像を流している。それがこの2、3週間は、選挙一色。まる1日、ああでもないこうでもないという選挙談義が四角い箱からあふれ続けている。正常な人なら吐き気を催すだろう。無論、開票後1週間以上も続いた総統府前の騒擾も延々と中継されていた。
日本ならば、朝青龍の2場所連続全勝優勝もある、ハルウララの「活躍」もある、サッカーワールドカップもセンバツある、松井がドームでホームランを打つ、パリーグが開幕した、ペタジーニか清原か、フィギュアの荒井が優勝したと、スポーツ関係だけでも1時間で足りないほどの素材がある。台湾にはそうした世界がほとんどない、と思っていただければ、現状が理解できよう。「投票率80%」の背景にはそうした事情もある。
そして、その選挙には賭博がからむ。結局、その賭博が、総統選そのものの行方さえも変えてしまったようである(テラ銭総額700億円、犯人は胴元の可能性が高いといわれている)。
連戦候補は、敗戦の夜、「不公平的選挙」と支持者に訴え、それが今回の抗争の号砲になった。
確かに不公平な展開になった。が、地震が襲おうと台風が来ようと、不正がない限り、その結果を受け入れるのが民主社会である。なにか疑問があれば、法的手段を粛粛ととるだけのことである。国民党主席、台湾大学政治学部教授、行政院長という経歴をもつ人物にして、この有様。台湾という島の民主主義はまだまだなんだあというのが、多くの在台日本人の感想であった。
ちなみにNHKは、「不公平」ではあまりに馬鹿げていると思ったのか、わざわざ連戦発言の字幕を「不公正」に変えていた。なんと親切なことか。
「○×不公平!」「○△不公平!」という流行語まで作った、選挙後の騒擾。しかし、あほらしいと、無視はできない。なぜなら、その座り込みには、馬英九台北市長、許信良元民進党主席、さらにはホウシャオシェン監督、そしてかのビビアンスーまで顔を見せ、応援していたのであるから。だからこそ台湾の病状は深刻なのである。
駄々をこねている子どもをあやすには、不合理でもその言い分をきいてやるしかない。陳政権は、開票やり直しを含めて、それらを受け入れるだろう。もしほんとうに不正があれば民進党政権が、不正も集計ミスも見つからなければ中国国民党が瓦解する。
自国の警察も病院も選管も信用できない人たちは、米国から専門家を招いて、元首銃撃の鑑識を委ねている。すでに「主権国家」として矜持も捨てたようだ。台湾は言い知れぬ不安に覆われている。ほくそえんでいるのは、中国ばかりである。
台湾の複雑な事情については、集英社新書『台湾革命』を参考にされたい。
(04年4月01日)



