【写真】胡同で過ごす夏休み。そういえばわたしも子供の
頃、こういう楽ちんなワンピースをよく着ていた。北
京の夏も、暑い
8月初旬、中国入り。北京に一泊する。
今回の取材の目的地、東北地方に着くまでは気が楽。前に長く滞在していた外国人バックパッカー向けの宿(一泊50元=約750円)に泊まる。従業員が中国としては驚異的に親切、ネット環境もいいし、なにより、雰囲気のいい胡同(フートン)の中にある。
胡同とは、昔ながらの長屋の立ち並ぶ北京の路地のこと。08年のオリンピックにむけた都市開発で、急激に姿を消しつつある。でもなかには、めざとい商売人が外国人受けをねらって、こんなふうにこぎれいな旅館やカフェを開業している胡同もある。
胡同の魅力はなんといっても、愛すべきその住民たち。彼らの暮らしは、せまい長屋のなかにとてもおさまりきらずに、「迷惑」とかなんとか関係なく、路上にはみだしまくって通行人を魅了する。
今回、北京では取材もなくて暇なので、ぜひ話しかけようと思ってきたおじさんがいる。この人は、この宿の向かいの長屋に住んでいる。というより、長屋の前に座っている。
長期滞在していたころ、毎朝、目が覚めて窓の外をみると、短パンに上半身はだかのおじさんが苦虫をかみつぶしたような顔で向かいの長屋の前に座っている。夜、寝る前に見ても、同じ姿勢と表情でそこにいる。いったいいつご飯を食べ、トイレに行っているのか。謎のおじさんだ。さらにある晩、おじさんがフランス人の旅行者にフランス語で話しかけているのを目撃し、謎はますます深まった。喜んだフランス人があれこれ話してもおじさんの返答にはバリエーションがほとんどないとはいえ、それでもれっきとした発音のフランス語だ。このおじさん、できる・・・。
今日来てみると、おじさんは太ったお腹を出し、苦々しげな表情でやっぱり座っていた。意を決して話しかけてみたら、思ったより普通にフレンドリーな人だ。話してわかったことは、おじさんはなかなかのインテリだということ、病気療養中でずっと自宅にいること。
「この旅館のラオパン(社長)は才覚があるな。世界中から旅行者が来ておる。あんたもここに泊まってるのか。じゃあ、わしらは隣人だな」
まったくもって勝手な想像だが、おじさんが家の前に座って日がな一日、出たり入ったりするバックパッカーたちを眺め、フランス人を見つけると話しかけている理由は、なんとなくわかる気がする。このホテルは、病気療養中のおじさんなりに「世界」とつながり続けるための、ひとつの回路なんじゃないだろうか。ある人にとっては書物が、ある人にとってはテレビが、ケイタイが、そうであるように。
明日から、北朝鮮が川の向こうに見える東北の街で取材だ。おじさん、私も私なりに、「世界」とつながる回路を探しているよ。 北京に戻ったら、また話しましょう。
(8月2日)
宿の近くにある後海(ホウハイ)と呼ばれる堀ぞい
には、長屋を改造してつくったえらくおしゃれなバ
ー(血の気がうせるほど値段が高い)が立ち並ぶ。
そこで泳ぎまわる地元の少年たち。この混在の感
覚が、いまの北京の魅力かも。
すいか山盛りの果物屋。人の気配のする暗闇は
なんとなく心地いい。二人が何を読んでいるのか、
確かめるのを忘れた。

おじさんと話す筆者(金へぎょん氏撮影)
胡同で過ごす夏休み。そういえばわたしも子供の
頃、こういう楽ちんなワンピースをよく着ていた。北
京の夏も、暑い。




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