
雲南省名物、「過橋米線(クオチャオミーシェン)」は、間違いなく、いまのところ中国でもっとも気に入っている食べ物だ。省都・昆明(クンミン)での取材は終わったが、これを食べずに去るわけにいかない。
「米線(ミーシェン)」とは文字通り米の線だから、米でつくった麺つまりビーフンのことだが、「過橋米線」はそんじょそこらのビーフンではない。
まず、運ばれてきたときのインパクトが素晴らしい。巨大な土鍋に煮えたぎったチキンスープ、麺、具が、それぞればらばらに運ばれてくるのである。具は、軽く火を通しただけ、もしくは生の、肉・イカ・魚・野菜など(店や値段によって中身は異なる)。これらを、超高温のスープのなかに入れて、ひとまぜ、ふたまぜ、それからおもむろに麺をスープにぶちこみ、またひと混ぜ、ふた混ぜ。火が通ったことを確認してからいただく。コンロなしで一人鍋をしているような気分で、とても楽しい。
量もたっぷりある。私は普段、一人前の食事を前にすると常に、また満腹中枢が満たされないのではないかという不安に襲われる大食いである。そんな私の強迫観念を、巨大な土鍋は軽やかに解き放ってくれる。ちなみに、今日入った店では、写真のこの量で小碗、6元(約80円)だった。(大碗は9元。)
「過橋米線」には逸話がある。話してくれる人によって微妙に内容が異なるのだが、だいたい総合すると、こんな感じだ――むかしむかし(明清時代?)、雲南にひとりの男がいた。けっこうな秀才だったが、科挙(官吏試験)になかなか合格できなかった。そこで、河のなかにあった小さな島に書斎をつくり、こもって受験勉強をすることにした。彼の妻は毎日、家から小島の書斎まで食事を運んでいった。しかし、運んでいるあいだに料理が冷めてしまう。そこで妻はある日、ぐつぐつ煮えたスープを土鍋にいれ、麺や具と別々に運ぶことを思いつく。妻の機転とおいしい米線のおかげで、男はついに科挙に合格できましたとさ。
内助の功ばんざい、みたいな話だが、男が科挙に合格したあと浮気して、激怒した妻は離婚し、「過橋米線」屋をつくって大繁盛しましたとさ、というオチがあったりするんじゃないだろうか。と、力こぶのありそうな両腕で土鍋を運んでいる店の女主人を眺めつつ、麺をすすって妄想する。
最後は、スープを飲む。匙なんか使うのはまだるっこしいので、地元の人たちは土鍋をもちあげて、ずずずっとやる。もちろん私も。非常に満足する。ただ、昼ご飯に「過橋米線」を食べたあとの午後は、胃がとてつもなく重くなり、睡魔との闘いになることは、覚悟しておかなければならない。
(11月29日)




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