「采訪壊孩子(ツァイファン フアイ ハイツ)=不良少年に会う」前編
親愛なるmaiko
元気?メール遅くなってごめん!北京は今日、大雪が降ったよ!朝7時、私たちは隊長の吹く呼び笛の音で飛び起きた(*訳注1)。笛を吹き鳴らしながら、大声で「緊急集合!緊急集合!」と叫ぶ隊長の声は、戦争でも始まったのかと思うほど、鬼気迫るものだった。クラスメートのなかには、パジャマの上に軍用コートを羽織って駆け下りていった子もいたぐらい。で、待っていたのは雪かき。みんな怒りのあまり吐血しそうになったよ。
さて、雑談はやめにして、黒社会(マフィア)に染まり始めた男の子の話をするね。
中学のときのこと。ある日の英語の授業中に、先生が突然、ひどく驚いたようすで叫んだ。
「出しなさい!それは何?!」
言うやいなや教壇から降りて、教室の一番後ろの列めがけて飛んでいった。女教師は顔を真っ赤にして、目には恐怖の色があった。生徒たちもみんな、振り向いてかたずを飲んで見守った。すると先生は、最後列に座っていた男の子の机の中から、長い果物ナイフを取り出した。
彼はそのとき、頭を垂れて何も言わなかった。クラス中が大混乱になった。
その頃、クラスに5人や6人はこういう男の子がいて、みんなから「劣等生」と呼ばれていた。彼らは毎日のように学校をさぼり、おしゃれな服装をして、口を開けば罵り言葉。先生たちも手を焼いていた。そのうちたいていどこかのマフィア社会の派閥に入って、ごくたまに学校に来るときには、5、6人がみな同じスタイルの黒い上着・黒いズボン・黒い革靴といういでたちだった。
カッコいい、なんて思っちゃいけない。クラスの男の子の一人が「保護料」を払わないと言いがかりをつけて、彼らがひどい暴行を加えたのを私はこの目で見たことがある。教室の机の上に立って輪をつくり、口汚く罵りながらその子の頭を蹴りあげていた。・・・これが、私の記憶のなかの「不良少年」だった。
最近知り合ったウェンハオも、つまりはこういう「不良少年」の一人。彼は重点中学の学生だけど、留年したせいで16歳になってもまだ中三をやっている。人を殴り、学校をさぼり、たくさんの女の子とつきあい、しょっちゅう家出をしては、街で野宿をする。そしてマフィアの兄貴分にくっついている。『青少年』(*訳注2)を書くために、私は中学生のいとこに、クラスの「不良少年」を紹介してくれと頼んだの。そうやって知り合ったのがウェンハオだった。
去年の8月のある日、昆明(クンミン)のバーでウェンハオと会った。外見からだけでは、普通の子と違ったようすはない。感じのよい、礼儀正しい態度で話をする。ウェンハオはビールを注文し、たばこに火をつけた。そして私たちはたくさんおしゃべりした。
彼のまわりの友達が私に教えてくれたところによると、このあたりで有名なうちに入る何軒かのクラブは、彼の縄張りだという。学校でももちろん学年のボスで、喧嘩をし、「保護料」をとり、生徒たちにはひどく恐れられている。先生たちは彼が学校の外で何をしているかは知らず、ただ「劣等生」とだけ認識している。あいつは勉強しないしできもしない、他の生徒にそれほど悪影響を与えず、教室で面倒を起こさなければ、それで万々歳、と。
「オレたちは要するに、踏み外しちゃってるのさ。どんな学校にもそういう存在はいて、重点学校も例外じゃない」
とウェンハオは言う。
よい高校への進学率をひたすら追求する重点中学は、優秀な学生を育てることに多くの時間と労力を割く。いわゆる「劣等生」にかまうヒマはない、ということになって、成績がそれほどよくない生徒のなかには、マフィアの社会に片足をつっこみ、徒党を組む子たちがあらわれる。
学校でこんなことがあったそうだ。ウェンハオが手持ち無沙汰で廊下にしゃがんでいると、クラス主任が通りかかった。
「先生が来るのを見て、なぜ立ち上がらないんだ?」
と主任は言った。
「立ち上がったら、あなたより背が高くなりますよ。なぜ立ち上がらせたいんですか?」
とウェンハオは答えた。主任はひどく腹を立てて、彼を職員室へ呼んだ。主任は怒りを抑えて言った。
「もう学校へ来たくないんじゃないかね?」
「チビのクラス主任が嫌なだけですよ」
主任はウェンハオの頭に指を突き立てて言った。
「お前を今まで学校にいさせてやっただけでも、ありがたいと思え!」
ウェンハオは身を起こし、主任の頭に指を突き立てて言った。
「お前を今まで生かしてやっただけでも、ありがたいと思え!」
でも実を言うと、ウェンハオは私にとてもよい印象を与えた。品があって、笑顔もさわやか。中ぐらいに伸ばした亜麻色の髪。めちゃかっこいい。
抗争の話を始めると、かすかな興奮と恐怖がウェンハオの顔にあらわれる。
「こういうことがあった。夜中に飲んでると電話があって、仲間が敵対する勢力に取り囲まれてるというんだ。オレたちは大急ぎで駆けつけた」
「カラオケボックスの下まで行って、最初にボスの兄貴が殴りこんだ。どうもボコボコにされているらしい。次にオレが行く、と言ったら、まわりのやつら8、 9人、誰も動かないんで突っ立ってるんだ。しょうがないからひとりで上がっていくと、相手は20人ぐらい、みんな黒社会の古株なんだよ!やばいと思って、何もしゃべれなかった。のされて転がってる兄弟をひとり肩にかついで逃げようとしたんだけど、無駄だった。『ここにもひとりいるぜ!』という声がして、あっけなくつかまってしまった。ポケットのナイフを握ったけど、抜く勇気はなかったよ」
「オレは壁ぎわで頭を抱えたまま、めちゃくちゃに蹴られた。感動したのはボスの息子の嫁さん――オレたちはねえさんって呼んでるんだけど――ねえさんが腕を広げてオレをかばってくれたこと。髪の毛をつかまれてひきはがされても、また戻ってきてかばってくれるんだ・・・」
黒社会のどんな札付きにも、生まれながらのゴロツキ流民なんていないのだと私は思う。生まれ落ちた瞬間から邪悪な赤ちゃんなんて、世界に存在しない。ウェンハオが子供の頃の思い出を話してくれて、分かったのは、彼が暴力のなかで成長し、自分自身の中にも暴力をしみわたらせていった子供だったということだ。
(後編に続く)
※訳注1:チェン・ジャニは解放軍芸術学院の生徒であるため、一部隊を構成する軍人ということになっているようだ。彼女たちの寮には「隊長」と呼ばれる人のよさそうなおじさん(軍人)がいて、毎週の点呼そのほかをとりしきっている。
※訳注2:チェン・ジャニはこの半年ほど、『中国青少年成長問題報告』の執筆で苦しんでいた。若者の非行や犯罪は中国でも問題化しており、最近は党の内部でも最優先課題のひとつに位置づけられているようだ。そこに目をつけた出版社が、若者の目線から問題を考えることのできる書き手として、チェン・ジャニに白羽の矢を立てたということらしい。
※筆者プロフィール
チェン・ジャニ(陳佳〓)
1985年中国雲南省・昆明生まれ。男の子を待ち望んだ両親のもとに授かった女の子。
遊びたい盛りの3歳から演劇・曲芸・京劇・絵画などを習い始め、コンテスト・フェスティバル・テレビ番組に絶え間なく出演する。15歳で個人散文集『童言有詐』、17歳で小説『猪未央』を出版。作家を志すも、まずは大学受験に苦しむ。北京の中国人民解放軍芸術学院に合格を果たし、中国文学を専攻するも、今度は映画を撮りたくなる。人生なかなか思いどおりにいかないことにようやく気づき、最近は静かになる。大学生活を送りつつ、初めての取材ルポ『中国青少年成長問題報告』を執筆中。
幼い頃から、科学嫌い、数学嫌い、名誉や利益に淡白、仏教を信仰する。趣味はダイエットと食べること。(〓は、女へんに尼)
※訳者紹介
maiko チェン・ジャニの友人。北京に滞在するあいだはルームメイトになり、東京に戻っているあいだはメル友になる。年齢はチェン・ジャニより10近く上だが、頼りないためかまったく年上扱いされていない。




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