「平和で静かな空を」と、米軍機の爆音解消・基地撤去を訴える人びと
取材:吉田敏浩 撮影:刀川和也 中平真由果
●凄まじい爆音の「暴力」
【写真:訓練に飛び立つ米軍の戦闘攻撃機 】
住宅が立ち並ぶ市街地の真上を、米軍のジェット機が低空で飛び交う。家々の屋根に覆いかぶさるように機影が次々と飛び去る。轟音を地上にたたきつけてくる。耳をつんざき、頭の中まで揺さぶるように響く。
この爆音と振動の下では、家の中にいても、会話もできなければ、安らぎも得られない。テレビの音も聞こえない。心身を苛む音と衝撃の「暴力」といってもいい。耳鳴りや難聴、ストレスによるイライラや頭痛、動悸、睡眠不足など、爆音による健康被害を訴える住民も多い。
また、いつ米軍機が墜落するかもしれないという不安と恐怖も伴っている。現にこれまで、1964年に住民5人が死亡・3人が負傷、1977年に住民2人が死亡・7人が負傷するなど、大小の墜落事故が何十回も起きている。

【写真:神奈川県の鶴間駅上空を飛行する自衛隊のP3C対潜哨戒機】
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ここ米海軍厚木基地周辺の住民は、このような米軍機による爆音、凄まじい騒音の害と墜落事故の危険に、もう50年以上もさらされている。生活と人権を侵害されつづけている。騒音対策として防衛施設庁による住宅防音工事もされているが、爆音を十分に遮断できるわけではない。
厚木基地は神奈川県中央部の大和市と綾瀬市にまたがってある。面積は約510万平方メートル(横浜スタジアムのおよそ200倍)と広大で、約2500メートルの滑走路を備えている。
厚木基地の航空管制区域となっている半径9キロ以内には、大和市と綾瀬市のほかにも座間市、海老名市、藤沢市、相模原市、横浜市、東京都町田市の市街地も含まれ、その範囲に住む人の数はおよそ150万人にも上る。厚木基地はまさに住宅が密集する都市部の真ん中にある。
米海軍第7艦隊の空母キティーホークの艦載機で、戦闘攻撃機のF/Aー18ホーネット、スーパー・ホーネット、電子戦機EAー6Bプラウラーなど、70数機がここを拠点にして、日本の上空を低空飛行訓練などで飛び回り、爆音をまきちらしている。
海上自衛隊も厚木基地を共同使用しており、P3C対潜哨戒機などが訓練を繰り返している。
●イラク戦争で爆撃をしてきた米軍の艦載機
【写真:訓練に飛び立つ米軍の電子戦闘機 】
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空母キティーホークの艦載機は、イラク戦争にも参戦した。2003年3月に米軍がイラクを侵略したこの戦争で、F/Aー18ホーネットなどキティーホークの艦載機の出撃回数は5375回、投下した爆弾の量は約390トンにも及ぶ(『イラク戦争の出撃拠点』山根隆志・石川巌 新日本出版社)。
この爆撃によって多くのイラク人が命を奪われ、負傷した。つまり、厚木や横須賀などにある在日米軍基地は、イラク戦争の出撃拠点であり、後方基地でもある。そんな在日米軍基地の維持経費として、日本は年間約6600億円もの国費つまり税金を支出している。日本はアメリカの戦争に加担することで、米軍に殺傷されるイラクの人びとに対して間接的に加害者の側に立っているのである。
キティーホークは横須賀の米海軍基地を母港としている。入港中、艦載機は厚木基地に移動して、離着陸訓練や旋回訓練を繰り返す。さらに、厚木基地を飛び立って、山口県にある米海兵隊の岩国基地との間を往復する途中に、紀伊半島から四国山地上空で低空飛行訓練をする。同様の訓練は中部地方から東北地方にかけての上空でもおこなっている。また、群馬県の山岳地帯上空では、対地攻撃用の訓練もしている。
基地監視活動をおこなう市民団体「リムピース」の調査によると、2004年の厚木基地における艦載機の総離陸数(飛行機数)は4420機。そのうち低空飛行訓練が240回で、対地攻撃用の訓練は271回である。
また、2002年に日本政府が公表した管制実績の記録によると、1999年〜2001年の3年間では、米軍機の厚木基地離着陸回数は、年平均28928回、月平均2411回である。自衛隊機の場合は年平均28558回、月平均2380回。こうした数字からも、爆音の被害がいかに深刻かがわかる。
米軍機のパイロットは日本の上空を我が物顔に飛び回り、操縦や攻撃技術の腕を磨き、イラク戦争などの実戦に加わる。そして、戦争から帰ってきてまた訓練を重ね、次なる戦争に備えている。
つまり、戦争という殺人と破壊を目的とする技能の向上と維持のために、日本の土地が、空が使われているのである。これはベトナム戦争の頃から続いていることだ。厚木基地を飛び立つ米軍機は、まさに血塗られた軍用機であり、非人間性の象徴である。
米軍機の爆音に苦しむ基地周辺の住民からなる市民団体、「厚木基地爆音防止期成同盟」(1960年に結成。現在の会員は約3000世帯)は、米軍・米政府と日本政府に対して、「平和で静かな空を返せ」と爆音の解消を求めるとともに、「基地の撤去」と「戦争反対」を訴えつづけている。爆音(騒音)問題だけではなく、厚木基地が米軍の戦争の出撃拠点になっていることで、周辺地域の住民が否応なく戦争の加害者の側に立たされているという問題も重視するからだ。
●米軍機の爆撃で子の命を奪われた親の気持ちは……
「厚木基地の滑走路はイラクに通じている」と強調するのは、「厚木基地爆音防止期成同盟」の初代委員長で、現在は「第3次厚木基地爆音訴訟原告団」の団長を務める真屋求(まや・もとむ)さん(78歳)である。
「私たちは長年、爆音に苦しめられてきました。基地を無くし、戦争を無くし、平和な世界にすることが爆音を無くすことにもつながります。かつてはベトナム、いまはイラクと、厚木基地を飛び立った米軍機が爆撃で、罪もない多くの人たちを殺してきました。私たちはその米軍機の訓練を止められないことについて、ベトナムやイラクの人たちに対して申し訳ないと思います」
否応なくアメリカの戦争に加担させられている日本、加担している日本、戦争の加害者の側に立っている日本だが、そのことをどれだけの人が自覚しているだろうか、と考えさせずにはおかない言葉である。
真屋さんは小学校の教師をしていた1960年の春に、東京から土地の安い大和市に引っ越してきて家を建てた。しかし当時、厚木基地が大和市にあるとはまったく知らず、しかも引っ越した頃は基地滑走路の拡張工事中で、爆音を耳にすることもなかった。ところが、同年6月に米軍機の飛行が再開して、爆音に苦しめられることになった。以来、爆音解消と基地撤去を求める住民運動に力を注いできた。
真屋さんが45年間にもわたる住民運動を続けてきた基底には、ひとつの痛切な体験がある。
1961年10月8日の日曜日、自宅の近くにある中学校で開かれた運動会を、真屋さんの長男(6歳)と次男(4歳)が見にいきたいと、折から来訪中の真屋さんのお兄さんにせがんで、自転車で連れていってもらった。真屋さん本人は勤め先の小学校の運動会に出かけていて不在だった。
運動会を見た帰り道、真屋さんのお兄さんが2人の甥を自転車に乗せて、小田急線の遮断機も警報機もない無人踏み切りに差しかかったとき、米軍のジェット機が飛んできた。その爆音で、近づく電車の音がかき消され、聞こえなかったため、お兄さんは電車に気がつかず、そのまま踏み切りを渡って、渡り切る寸前に自転車の後部を電車に撥ねられた。長男は即死し、次男とお兄さんは重傷を負う惨事となった。
この事故で真屋さんが受けた衝撃、悲痛さは、余人には想像しがたいほどのものだったろう。
「それまで、住民運動の始めの頃は、政府に有償疎開の措置を求めていたんですよ。しかし、息子の事故死があってね、もう俺はここを動かんぞ、と腹が決まりました。息子の血が染み込んだ土地を、親が離れるわけにはいかない。離れられないぞ、と…‥。だったら、基地をどかしてやると、爆音解消・基地撤去へと腰が座ったんです」
基地があり、米軍機が、軍用機が空を飛んで爆音をまきちらしていたために、我が子を失うことになった真屋さんは、「戦争があるから、基地がある。軍用機が飛ぶ。だから、戦争があってはいけないんですよ。人を殺す戦争があってはならない」と語る。
「ベトナムやイラクで米軍機の爆撃によって子の命を奪われた親の気持ちは、痛いほどわかります。親は、それはたまらないだろうな、と思いますね…‥」
そうであるがゆえに真屋さんは、米軍基地の存在と米軍機の訓練を許している日本社会が、自分たち日本人が、戦争の加害者の側に立っていることへの心の痛みを、なお一層覚えずにはいられないのだろう。

【写真:真屋 求さん 】
<第三次厚木爆音訴訟原告団長 真屋 求さん(78歳) インタビュー>
Q1.原告のみなさんがこの裁判を通じて訴えていることは何ですか?
A1.「……爆音の解消、平和な世の中づくりを目指しています……」
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Q2.基地周辺の住民は、米軍機の爆音によってどんな被害を受けているのですか?
A2.「……会話ができない。寝られない。心臓を悪くする人も多いです……」
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Q3.厚木基地で訓練をする米軍機はイラク戦争に出撃し、イラクの人びとの上に爆弾を落としました。在日米軍基地を支えている日本は、アメリカの戦争に加担しています。それについてはどう思いますか?
A3.「……厚木の滑走路はイラクに通じています。イラクの人びとに対して、我々も加害者の側に立っているのです……」ご覧になるには有料会員登録が必要です。
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Q4.基地周辺の住民にとってだけでなく、日本社会全体にとってもこれは大きな問題ではないでしょうか?
A4.「……爆音の解消だけではなく、戦争をしない平和な日本をつくるためにもこの裁判の判決が持つ意味は大きいです……」
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●裁判所も爆音による侵害は違法と認めている
米軍機による爆音被害を無くすためには、米軍・米政府への抗議や申し入れ、自治体・日本政府への陳情や請願などだけでは効果があがらないとして、厚木基地周辺の住民の間から起こされたのが、厚木基地爆音訴訟である。
「厚木基地爆音防止期成同盟」を中心に、1976年提訴の第1次訴訟(原告92人)、1984年提訴の第2次訴訟(原告161人)、1997年提訴の第3次訴訟(原告5047人)と続いてきた。
第1次訴訟と第2次訴訟では、国を相手取って米軍機の飛行差し止めと爆音(騒音)の損害賠償を求めた。それぞれ最高裁と高裁まで争い、19年間と15年間にも及ぶ長期裁判だったが、どちらも「日米安保条約に基づく米軍機の運行には、日本の民事裁判権は及ばない」という理屈で、飛行差し止めの請求は却下された。ただ、「爆音は受忍限度を超え、爆音による侵害行為は違法」として、損害賠償を認める判決だった。

【写真:第4回目の公判が開かれた3月3日、東京高等裁判所前に集まった原告団の人びと】
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だが、「爆音は違法」との判決、司法判断が出たにもかかわらず、日本政府は爆音解消に向けて真剣に取り組まない。そこで起こされたのが、5000人以上の大原告団による第3次訴訟である。
原告団に高齢者の多いこともあって、裁判の長期化を避けるためと、速やかな勝訴で日本政府に猛省を迫るために、第3次訴訟では飛行差し止め請求はせず、損害賠償に的を絞った。その上で、損害賠償区域をW値(騒音のうるささ指数)75の区域にまで拡大させること、国側の主張する「危険への接近論」(爆音があることを知っていて居住したのだから、損害賠償の対象にはならないという論理)を論破することを目指した。
2002年に横浜地裁で下された判決では、原告側の主張がほぼ全面的に認められ、総額27億4600万円の損害賠償の支払いを国に命じた。損害賠償区域の拡大も認められ、「危険への接近論」も否定された。裁判長は判決の中で、「爆音に苦しめられている住民に対して、国は本腰を入れて真摯な態度をとっているとは考えられない」と、国の姿勢を強く批判した。
ところが、国側が東京高裁に控訴したため、裁判闘争は続いている。今年3月3日に第4回公判が開かれ、7月26日には結審、今年度内に判決が出される見通しだ。原告団と弁護団は、「公正かつ憲法が生きた判決を」と、日本社会全体に向けても広くアピールしていきたいと表明している。

【写真:藤田栄治さん】
<第三次厚木爆音訴訟原告団事務局長 藤田栄治さんインタビュー>
Q1.原告のみなさんがこの裁判を通じて訴えていることは何ですか?
A1.「……爆音によって一家団欒の楽しみが妨げられていることや、墜落事故の危険にさらされている恐怖感などです。爆音が放置されていることへの怒りもあります……」
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Q2.この裁判では何が争点になっているのですか?
A2.「……爆音が受忍限度を超える異常・違法な状態であることは、第一次、二次の訴訟の判決でも認められています。しかし、爆音は減らずむしろ厳しくなっています。そのことをこの裁判で明らかにしたいということです……」
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Q3.厚木基地で訓練をする米軍機はイラク戦争に出撃し、イラクの人びとの上に爆弾を落としました。在日米軍基地を支えている日本は、アメリカの戦争に加担しています。それについてはどう思いますか?
A3.「……連日のように上空で訓練した米軍機が、イラクで無差別攻撃をしてきました。それに対して許せないという気持ちは、周辺住民の間に強くあります……」
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Q4.日米軍事一体化が進み、政財界やマスコミでは憲法9条を変えようとする動きも強まっています。日本が戦争のできる国に変わりかねない時代になってきました。この現状を踏まえて、日本社会に向けて何を訴えたいですか?
A4.「……アメリカの言いなりになっている日本の政治のあり方はおかしいと思います。在日米軍基地と基地被害の実態を多くの人たちに知ってほしいです……」
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●この現実を直視したい
厚木基地の爆音被害は、基地周辺の住民にとってだけの問題ではない。沖縄や神奈川をはじめ、日本各地にある在日米軍基地がもたらす爆音や墜落事故、米兵の犯罪、有毒物質汚染など様々な基地被害は、日米安保条約による日本の安全保障や日米同盟の維持といった大義名分のもと、基地周辺の住民にしわ寄せされている。
そうした基地被害が住民にしわ寄せされることを、日本政府は日本の安全や日米同盟のための「やむをえない被害・犠牲」と見なしているのではないか。それを日本人の多くも漫然と受け入れ、あるいは無関心でいるのが現状だと思われる。
しかし、基地周辺に住む人たちに被害のしわ寄せを強いたまま知らぬ顔の、そんな日本社会であっていいのだろうか。むろん、基地を日本全国に分散させればすむという問題ではない。在日米軍そのものの存在を根本から考え直し、すべての基地を無くす方向に目を向けるべきではないか。
戦後60年間にもわたって、日本に米軍が大規模な基地を置きつづけ、さらに米軍再編によって基地機能を強化し、居座りつづけようとしている現実と、それを日本政府が安易に認めている現実を直視したい。
米軍はベトナム戦争や湾岸戦争、アフガン攻撃、イラク戦争など、日米安保と何の関係もない他国での戦争に、在日米軍基地から出撃してきた。後方支援のための基地として使い、戦争のための訓練にも利用してきた。そんな基地を維持するために日本は多額の税金を費やし、アメリカの戦争に協力し、加担してきた。米軍によって殺され、傷つけられる人びとに対して間接的に加害者の側に立ってきた。その現実を直視したい。
そして今、イラクやインド洋で自衛隊による米軍支援が続いている。日米共同訓練・演習も増加し、自衛隊と米軍の連携は強まっている。日本の政財界やマスコミでは、憲法九条を変えて自衛隊を軍として位置づけ、集団的自衛権の行使もできるようにすべきだとの声が高まっている。
このような動きがエスカレートし、もしも日本が海外派兵して米軍とともに武力行使をするような国になったら、他国の人びとを殺傷する米軍と同じ行為に手を染めることになる。米軍機が爆撃で殺人と破壊を繰り返しているのと同じことを、日本の軍用機がおこなう事態も起きかねない。まさに戦争の直接の加害者にまでなってしまうだろう。
しかし、そんな時代を迎えてもいいのだろうか。厚木基地を飛び立つ血塗られた米軍機の横に、もしかしたら起こりうる悪夢のような事態を想像して、戦争に出撃する自衛隊機の機影を思い描くとき、「厚木基地の滑走路はイラクに通じている」という言葉が一層重い意味を持って迫ってくる。



