選挙結果が出ないうちに、政治家たちの動きが活発になってきた。その舞台はアルビル。連日、バグダッドから指導者たちが入れ替わりやってきた。

【クルド地域政府議会で演説するシーア派イラク革命最高評議会のアブドル・アジーズ・ハキム師 05年12月28日/アルビル 撮影:坂本卓】
■選挙結果待たずに早くも駆け引き 連立に向け交渉がすすむ

文:坂本卓 2006年1月5日 (アルビル)
「シーア派勢力は容易に妥協せず、スンニ連合はとにかくなんでも反対。クルド同盟は両者の仲を取り持ちながら、ちゃっかり分け前を約束させる」
いまのイラク政府内の三大勢力の関係を一言で表現すると、こうなるのではないか。
2週間以上かかると予想されていた国民議会選挙の結果が出ないうちに、各派の政治家たちが動き出している。年末年始、バクダッドからほぼ毎日、入れ替わりに、イラクの各派指導者が、クルド自治区アルビルにやってきた。マスード・バルザニ・クルド自治政府議長は連日、各派代表と会談を重ね、その間、ジャラル・タラバニ・イラク移行政府大統領も頻繁にアルビルを訪れた。
シーア派とクルド人がスンニ派アラブ人勢力を引き込みながら、統一イラクへの枠組みを話し合う。クルド人勢力は、シーア派とスンニ派の仲介を取り持ちつつ、自治区の地位確約やキルクークの自治区帰属要求など、裏書を取り付けるべく、したたかに交渉を進めていく。

選挙後、最初にアルビル入りしたのが、イスラム教シーア派の統一イラク連合内の最大勢力、イラク革命最高評議会のアブドル・アジーズ・ハキム師だ。クルド自治政府議会での基調演説(12月28日)では、クルド人を「前政権による苦難をともに経験した同胞」と呼び、統一への合意がなされることを強調した。30分に及んだ演説のなかで、ハキム師は民主主義という言葉は一度も使わなかった。
続いて、1月1日、イブラヒム・ジャファリ首相(シーア派)、1月2日、スンニ派政党・会派連合のイラク国民合意戦線代表らがアルビルを訪問。国民合意戦線のタリク・アル・ハシミ代表とアドナン・ドレイミ氏は、いずれも険しい表情を崩さなかった。選挙について、投票現場で不正があったとして選挙への強い不満を表明し、統一した政府づくりにはまだ障害があると語った。記者会見の席上、私は、武装勢力の攻撃で市民に犠牲が出ていることについて質問した。ハシミ代表は、強い眼差しで私を見据えてこう言った。
「市民への暴力の行使は拒否し、非難する」
だが、治安問題の解決策をきくと、「経済、政治、治安の3つの包括的な交渉が並行してなされることが治安問題解決への道筋」と答え、武装勢力を力で封じ込めるだけでは解決にはならないことを強調した。
いずれの会談の席にも現れたのが、ホシャール・ザバリ外務大臣(クルド人)だ。ハキム師や、スンニ派指導者たちの背後にぴったりと付き添いホスト役を務める。記者会見場では、演壇の傍らで、ときおりニヤリとした表情を見せる。その姿は、配役を巧みに操りながら、舞台を眺める脚本家のようにも見てとれた。
あたかも永田町のようになったアルビル。内閣のポスト配分や治安問題、いくつもの課題をめぐって駆け引きはさらに加速する。「シーア派勢力の勝利」という選挙結果は最初から予想されてはいたが、いかにスンニ派政治勢力をとりこみ、連立政権を作り出すのかは、政治家たちの努力によりところが大きい。したたか、かつ、一歩も引かない政治家たちの攻防を間近で見ていて、「選挙なんて大金を浪費したショーに過ぎない」と言っていたバグダッドの友人の言葉を思い起こした。

【写真上:連立参加への協議を終えたイラク国民合意戦線のアドナン・ドレイミ氏(左)、タリク・ハシミ代表(中央)、クルド自治政府マスード・バルザニ議長(右) 06年1月2日/アルビル 撮影:玉本英子】
【写真下:ホスト役を務めたホシャール・ザバリ外務大臣。 06年1月2日/アルビル 撮影:玉本英子】




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