■ザルカウィと「イラクの」アル・カイダ(2)
当初、イラク人による武装勢力の多くが、反占領抵抗闘争の性格をもっていたのに対し、ザルカウィ組織は、この戦争を「世界的なイスラム聖戦のひとつ」としてきた。宗教的大義をもって歴史の流れのなかに自分を位置づければ、斬首や自爆攻撃などへの疑問を抱いても、心ではそれがおかしいとは思いつつも、自分を納得させようとする聖戦の意識で押さえ込んでしまおうとするものだ。
地元イラク人は、こうしてパキスタンやサウジなどからやってきた過激義勇兵と連携し、ネットワークでつながった。2004年9月、組織は改名し「イラクの聖戦アル・カイダ機構」となったとされる。
「イラクの」というのがポイントだ。アラビア語の組織名は「タンジーム・カーイダ・イル・ジハード・フィ・ビラッド・イル・ラフィダイーン」。イラクという言葉はひとつも入っていない。ラフィダイーンというのは、「2つの大河(チグリスとユーフラテス)に挟まれた大地メソポタミア」をさす。つまりイラクのことだ。一般に「イラクの」として置き換えて訳される。
イラク人は、自分の国を呼ぶとき、「イラク」のほかに、このラフィダイーンの呼び名を使うことがある。一方、イラク人以外のアラブ人は、「イラク」としか呼ばない。ラフィダイーンは、イスラム勃興時の呼称にならったものとも言われる。だが、イラクでの根拠地建設のために、ラフィダイーンという言葉を選んで使い、イラク人の心に訴えかけて反占領の意識を喚起する意図があったと、私は推測している。
飛躍しすぎかもしれないが、「日本」といわず、「大和(やまと)の国」というと、かなりナショナリスティックな響きがあるのと同じ感じだろう。そういう呼称にしたのは、組織のドン、ザルカウィがヨルダン人であるからこそではなかったか。
![]() 【バグダッド国際会議場に貼ってあったザルカウィ手配の張り紙。2004年に懸賞金は100万ドルだったが、その後、250万ドルまでにアップ】 |
ビン・ラディンは、スンニ派とシーア派が宗派をこえてアメリカと戦うことを指向していたのに対し、ザルカウィはシーア派を異端者とみなし攻撃対象と考えるようになった。ビン・ラディンのアル・カイダと決定的に異なるのはこの点だと思う。ターゲットは米軍にくわえ、その協力者とみなすものすべてとなった。そしていまは、イラクの混乱そのもを目的としている。
ザルカウィの潜伏先情報をもたらしたのはアル・カイダ内部メンバーという。「テロ行為に関与したため懸賞金は支払われない」と米軍は発表したが、ハリルザド駐イラク米大使は米メディアの取材に否定も肯定もしなかった。「イラクを混乱させるために戦っているのではない」と刑務所で取材した統一と聖戦組織の元メンバーは話した。
組織内部の裏切りがあったとすれば、懸賞金が目的か、ザルカウィへの批判かのどちらかだ。武装勢力の活動を封じ込めるには、この点をつくべきだ、と米軍や治安当局は考えている。イラクテレビでは「アル・カイダは外国からやってきてイラクを破壊している」という広報が繰り返しながされるようになった。
「テロとの戦い」が、未曾有の「テロ組織」を作り上げることになってしまったという皮肉。怪物退治をしにきた地で、怪物はどんどん仲間を呼び寄せ、さらに大きくなってしまった。いつまでこの戦いを続けていかねばならないのだろうか。
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イラク・トルコ・イラン・シリアにまたがるクルディスタン。分断民族クルド人とは。クルド問題とその他の地域も取材中(坂本卓/アジアプレス)




