「裸の王子様」

「やめろ」「やめない」が喧しい相変わらずの台湾である。総統の娘婿は身柄の拘束は解かれたが、懲役八年の求刑が下った。インサイダー取引としては非常に罪が重い。弁護士出身でもある陳水扁総統は、「ちょっと重過ぎないか」と愚痴をこぼしたという。
総統夫人をめぐる商品券疑惑(かといって何が問題なのか、私もいまだによくわからないのだが…)、夫人の宝石の出所をめぐる疑惑(同)、そしてこの婿とその一族をめぐる疑惑のデパート…、これらをみていると、彼らに対する愛着がますます募ってくるのである。
ちょっと金目のある話についつい耳を傾けてしまう腰の軽さ、もらえるものはついもらってしまう正直さ、友人知人との、ちょっと貸して、ちょっと買ってといった友情の篤さ。その無防備ともいえる庶民性は、かれらの人のよさを表して余りある。中国からのスパイも含めて、台湾総統府はしたたかな敵に囲まれていることをご存じなかったのであろうか。
ごたごたの最中に日本行きの切符を予約していたという娘。もともと長栄航空(エバエアー)のフライトを予約していたのだが、母親(すなわち総統夫人)は、長栄をやめて中華航空にしなさいと言ったという。長栄のオーナーが最近、中国派に寝返ったことが理由らしい。真偽のほどはわからないが、そんな会話が家庭で交わされているのが目に見えるほど、彼らは庶民感覚を維持したまま、六年も官邸生活を続けてきたわけである。
これが台湾派の王様とすれば、さいきん日本を訪問した馬英九中国国党主席・台北市長が中国派のプリンスである。こっちの王子様はけちな金などに目もくれない。血筋も血統も申し分のない大陸出身のサラブレッドで、庶民の暮らし振りなどにはおよそ無縁の人生を歩んできた。しかし、屋台の前で財布を開いてみたり、ジョギングに興じてみたり、原住民の服を着てみたり、庶民をひきつけるパフォーマンスは十二分に心得ている。言葉も行動もスマートだ。

米国に続く外遊、今回の訪日の目的は総統の椅子への地ならしの一環なのだが、わけても「反日」イメージの払拭が重要な使命だったらしい。
「親日」「反日」といった区分は好きではないが、少なくとも馬英九とその周辺が日本に関心も好意ももっていないことは誰が見ても感じ取れる。反日は台湾国民をひきつけるひとつのポーズでもあるし、ことさらそれを強調するのは、彼のかつての「上司」であり、「先輩」でもある「裏切者」の李登輝元主席と強く一線を画する必要があるからである。
馬英九はいったいどういう人物なのか…昨年暮れのクリスマスに台北市が、高砂義勇隊の慰霊云々というイベントを催したことがある。アリバイ的な唐突な催しだが、趣旨は理解できるし、準備したひとたちもそれなりに真面目だったのだろう。が、彼の挨拶は異様なものだった。「日本人は原住民の人肉を食っていた」というのである。原住民が大多数の観衆は一瞬「ポカン」となった。いったい何の話なのか。なかには演台に抗議に行く人もいたが、馬市長は、顔色ひとつ変えない。
彼は日本に興味がないというより、そもそも台湾に関心がないのではないか。王子様の頭には聞きかじりの台湾史しかないようにみえる。
しかし彼はいま、中国との関係改善・関係強化を使命に六人目の台湾=中華民国総統への道を着実に歩んでいる。そういう意味では、現状に大きな変化がないほうがいい。むしろ、陳総統が疑惑をひきずったまま任期を全うしたほうが好ましいという計算も彼には働いていよう。
*写真 上 陳水扁の辞任を求めて走る宣伝カー
下 馬英九中国国民党主席・台北市長



