法人格はあるがボランティア状態
![]() 【小型ビデオカメラで取材する玉本英子(右)/カブール02年】 |
フリーランスの仕事の基盤を安定化させるため、テレビ局と独占契約を結ぶ人たちもいる。
ジャパンプレスの佐藤和孝と山本美香のケースである。彼らは日本テレビと契約を交わし、取材の成果はほとんど日本テレビで発表している。
契約を結んだ理由を山本はこう語っている。
「日本人に関心のない問題や忘れ去られた事柄でも、伝えなければならないことがたくさんあります。独占契約を結んでいるのは、そういったニュースの大小に関わらず、伝えたいこと、伝えなければならないことを企画として通すことができるからです」
代表の佐藤はもともとフォト・ジャーナリストとして、アフガン取材に取り組んできたが、90年代初頭から写真に加え小型ビデオの撮影を始めた。
その後、報道、ビジュアル系の雑誌が衰退するにつれ、仕事の重心をテレビへと移行させてきた。
一方、山本はCS放送局「朝日ニュースター」で映像記者として働いた後、ジャパンプレスの立ち上げに参加した。
彼らはイラク戦争報道で03年度ボーン・上田賞の特別賞を受賞しており、戦争報道で数多くの実績を築いてきた。
フリーランスの集まりでありながら、アジアプレスやジャパンプレスが、有限会社としての法人格を持っているのは、テレビ局との取引をスムーズにするためである。
番組制作費など数百万円以上の支払いの生じる場合、テレビ局が法人と法人との取引関係を求めてくるからである。
私たちは任意団体でもかまわないのだが、テレビ局と金銭的なやりとりを行う以上、法人格の取得もやむをえない。
その意味では、一般のプロダクションとは性格が異なる。
私はアジアプレスの代表兼取締役だが、アジアプレスから報酬はもらっていない。
赤字を補填するための持ち出しはあっても、金銭的な「利益」を得ることはなく、基本的にはボランティアと変わらない。
また土井敏邦たちが会員となっている日本ビジュアル・ジャーナリスト協会は、その名の通り「協会」であり、参加しているジャーナリストは、それぞれフリーランスとして活動しているが、定期的に共同の写真展やシンポジウムなどを行う。
その他、テレビで仕事をするフリーランスの中には、制作プロダクションと単発の契約を結ぶ者もいる。
APF通信社の契約記者だった長井健司や日本電波ニュース社のニュース、ドキュメンタリー制作に関わっている遠藤正雄など。
APF通信社長の山路徹は旧ユーゴ紛争の折、ジャーナリストとして活躍した人物である。
事故が起きた場合は「自己責任」
フリーランスの活動領域が広がるにつれ、問題となってくるのは取材先での危機管理である。
「安全」の確保という点から見れば、マスメディアの記者たちよりも危険な取材を行うことも多い反面、取材のバックアップ態勢は一般的に貧弱である。
まず事故が起きたときの保険はどうなっているのか。
戦地での取材には特別な「戦争保険」がある。
しかし、掛け金が高いので自分のカネで加入したというフリーランスは聞いたことがない。
例えばバグダッド取材の場合、掛け金が1カ月200万円(死亡で約1億円の保障)などということもあるらしい。
だからフリーランスはたいがい通常の「海外旅行保険」だけで済ます。
イラクなどで事故が起きたときは、おそらく保険金は払われず、自分で対処するしかないだろう。
ただ「戦地」や「危険地帯」の定義は意外とむずかしいもので、パレスチナの抗議行動を取材中、イスラエル軍のゴム弾を目に受けて負傷したカメラマンに「海外旅行保険」の保険金が下りた例もある。
いずれにせよ、大方のフリーランスは「戦争保険」に掛けるカネがあるなら、取材費に回したいと思うものである。
いつも単独で行動しているフリーランスにとって、万が一のときの救援態勢を整えている人は少ない。
ギルド的な互助組織も機能しているとはいえず、緊急の場合は友人関係で動くことになる。
アジアプレスの場合は、不十分ながら緊急時に迅速な対応ができる態勢を敷き、現地との定期的な安全確認を怠らないように心がけている。
フリーランスにとって事故が起きたときの責任の所在については、すべて「自己責任」ということになる。
玉本英子は取材前、「この取材はすべて自身が企画し、いかなる事態になろうとも責任は自分のみにある」という「確認書」を親に見せて署名してもらう。
また所属事務所であるアジアプレスともいくつかの了解事項を取り交わすことになる。
例えば、その中には取材中、武装勢力に拉致、誘拐されたときの対応なども含まれる。
「私が誘拐されたとき、日本政府はむろんのこと、アジアプレスであれ、NGOであれ、救援活動は一切拒否します」といった内容の「覚書」を残すこともある。
自らの意思で取材を行い、その結果に対しては自分で責任を負う、というフリーランスの「心構え」と「覚悟」を示したものである。
このような決意を持って戦場取材に臨むからこそ、危険な現場に踏みとどまり、「良い仕事」ができるのだと思う。
一般的な「才能」や「能力」よりも、大切なのはスピリットである。




