連載(1) أنا مسلم وأنا عراقي ![]() 【「シーアでもスンニでもない。僕はイスラム教徒で、イラク人」と話すビラルくん(13)。だが、そう言わざるを得ない現実がある】 |
戦争から5年。イラクはどんな状況なのか。
人びとはどんな思いで暮らしているのか。
イラクのことばから、いまを読み解く新シリーズ。
アナ・ムスリム・ワ・アナ・イラキ 「私はイスラム教徒、そして私はイラク人」 |
この言葉をよく聞くようになったのはこの2〜3年のことだろうか。スンニ派とシーア派の宗派抗争がとくに激しくなってからだ。
昨年、イラク軍に従軍して、バグダッドのシーア派地区に入ったときのことだ。地区には、隣接するスンニ派地区から、連日、迫撃弾が撃ち込まれていた。これに対して地区ではサドル派のマハディ軍が勢力を伸ばし、スンニ派の家に放火するなどしていた。
路地にいた子どもたちに話をきいた。
「銃をもった人が車でやってきて撃ちまくって逃げていく。学校の行き帰りも怖い。誘拐された友達もいる。外でサッカーもできなくなった」「友達はみんなバグダッドを離れ、南部とか、ヨルダンやシリアに引っ越した」
子どもたちは、大人の始めた戦争の犠牲になっていた。
「爆弾?きのうもこの先の市場で爆発があった。そりゃ怖いよ。でも慣れちゃった」
中学生のビラルくん(13才)にきいてみた。
「きみはシーア派なの、スンニ派なの」
彼は、えへへ、と、笑顔を見せ、言った。
「僕はイスラム教徒。スンニでも、シーアでもない。イラク人だよ」
僕たちには宗派の争いなんて関係ない、という思いから、ビラルくんがそう言ったのではない。どの子どもたちにきいても、同じ答えが返ってくるのだ。子どもたちは、これまで「宗派」ということを意識することはなかった。
いま、イラク人は、宗派について話すのを避けるようになっている。子どもたちは学校や家庭で、宗派のことには触れないよう、繰り返し教えられている。そして、どこかで誰かにシーアかスンニかを問われたら、「私はイスラム教徒、そしてイラク人」と答えるよう言われている。
自分の身を守るには、そうするしかないのだ。
誰一人、宗派の抗争なんて望んでいなかったイラクなのに、自分の属する宗派、集団の利害が持ち出されるようになってしまった。そして、多くの人たちが、いやおうなしに、この現実を突きつけられている。
「私たちはともにイラク人じゃないか」
テレビではこんなキャッチフレーズの広報が増えたが、こうした思いや願いも、実際にはむなしく響くばかりだ。
宗派抗争の混乱が収まる日がいつかやってきても、イラク人の心に深い傷跡を残すことになるだろう。
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坂本卓
クルドが専門で、アラブは専門ではありません。アラビア語は奮闘中ですが、コーランや文化の影響もあり、クルド語と同じ単語も数多く見られます。バグダッド滞在中にアジアプレス現地スタッフのモハメッドからアラビア語集中講座を受けるも、まだ道のりは長いです。このシリーズでは、これまでの取材とモハメッドからの情報をもとに、いまを読み解く「イラクのことば」を紹介します。
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