坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(2) 「来たれ ジハードへ」

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【こうした「ジハード落書き」は政府が徹底的に消してまわっていることもあり、バグダッドでは今かなり減っている】(撮影:2004年/バグダッド)】
ことばで読み解くイラク(坂本卓)
戦争とその後の混乱。人びとはどんな思いで生きているのか。ことばからイラクを読み解く。
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ハイ・アラ・アル・ジハード
「来たれ ジハードへ」

ジハード(聖戦)やムカワム(抵抗)という言葉が並ぶ落書きが急に増えたのは、アメリカ軍の占領に対して抵抗が組織され始めた2004年ごろからだ。フセイン政権時代は、ジハードという言葉を政府は使うことはあったが、政府も国民もどこまでそこに「真剣さ」を感じていただろうか。

その後、「米軍への抵抗は、異教徒の十字軍に対するイスラムの聖なる戦い=ジハード」と武装勢力は呼ぶようになった。

ジハードとは本来は「自己に対しても、外部に対しても、神のために力を尽くして闘争する」という意味だったはずだが、イスラム教徒による異教徒との戦い、侵略者への戦争として理解されるのが普通となった。

写真左端の△マークが示すのは、スンニ・トライアングル。スンニ派エリア、ティクリート - ラマディ - バクーバを結ぶ三角で結ばれる地域のことで、△の真ん中にある 「・」 はバグダッドを意味する。三角地帯で米軍を地獄に叩き落す、という意味のこめられた△印はまた、住民にとっては、そこが戦闘のもっとも熾烈な場所となることを意味していた。

トライアングル地帯でこれまで反米的だったスンニ派有力部族が、武装勢力との関係を断ち切り始めている。アメリカに"屈服した"というのも分析のひとつではあるが、なにより、みんな疲れているのだ。

いま、自爆攻撃は米軍に対してではなく、買い物客でにぎわう市場で起きる。自爆をする人間のほとんどが外国からの過激な義勇兵。自分たちに協力しない者を拉致し、斬首して殺害する。

家族や友人を米軍に殺された若者たちは、ジハードを信じていたし、ファルージャなどでは、ムジャヒディーン(聖戦士)とも呼ばれた。「来たれ」と呼びかける"ハイ"は、「生きている」という意味がある。しかし、参加した者の多くは、その生を投げ出さなければならならなかった。

自爆や誘拐などの戦術、そして政府のキャンペーンの結果、武装勢力はムハラビーン(破壊者)、ムタマラディーン(迷惑者)と呼ばれるようになった。

普通のイラク人は、「アメリカは民主主義をもたらしてくれているのだ」などとは思っていないのと同時に、自爆攻撃や斬首処刑が「聖なる戦い」だとも思っていない。イラク攻撃によってイラクに根付いたのは民主主義ではなく、ジハードの名のもとの殺戮と宗派抗争であった。それは、皮肉というレベルをもうとっくに超えている。

坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(1)「私はイスラム教徒、そしてイラク人」
坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(3) 「グレンダイザー」
坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(4) 「女性の自爆攻撃」
坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(5) 「狙撃だ」
坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(6) T-WALL (T ウォール)
坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(7) 「靴投げ」

坂本卓
クルドが専門で、アラブは専門ではありません。アラビア語は奮闘中ですが、コーランや文化の影響もあり、クルド語と同じ単語も数多く見られます。バグダッド滞在中にアジアプレス現地スタッフのモハメッドからアラビア語集中講座を受けるも、まだ道のりは長いです。このシリーズでは、これまでの取材とモハメッドからの情報をもとに、いまを読み解く「イラクのことば」を紹介します。

【関連リンク】
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