![]() 【両岸直航便の開通で微妙な立場に追い込まれた金門島。いままで中台交通の中継地として利用されていた。対岸に大陸が見えている】(撮影:柳本通彦) |
この水曜日、台湾の軍艦が日本に向けて出動するはずだった。国防大臣が乗り込む、いや馬英九総統に乗ってもらおう、という勇ましい話も出ていた。
しかし台湾政府は、あっさりと「敵前逃亡」してしまったのである。
この間、日本の国旗を焼いたり、交流協会( 大使館 )にタマゴを投げたり、日本製のテレビをバットでたたいたり、そごうデパートから出てきた客を追い掛け回したり、日本人記者を包囲して侮辱したり、さまざまな狂騒が吹き荒れ、日本の児童が殴打されたという噂も流れた。
冷静な事実確認も国際常識も欠いた騒動であったにもかかわらず、日本政府は、沈没した船長宅を訪れて謝罪したり、海上保安庁の代表者が謝罪会見を開いたり、日本大使が台湾立法院長を訪問したりして、ただひたすら低姿勢で穏便な解決をはかる一方、「台湾内で反日の気運がこれまでになく高まっており、台湾で生活する日本人の皆様の安全を脅かす可能性があります」として在台日本人に注意を喚起する「お知らせ」を発したりした。
そして、台湾側はある瞬間を境に、一気に一切の発言と行動を封じてしまったのである。
日本側の謝罪の表現は、「遺憾」――。これでこっそり押し切ってしまおうという腹だったんだろうけど、漢字圏の台湾人にはなかなかごまかしがきかない。
テレビ局の友人からも問合せがあった。日本語の「遺憾」はどういう意味?
海上保安庁も大使館職員も頭をさげている。これは事実上謝罪なんだと答えるしかない。
なんとなく、うやむやのうちに、日本が謝罪した、賠償するんだという形になって、短い「戦争」は終結したのである。
日本の報道は消極的。NHKはまったくといっていいほど報道しない。台湾にとっては、恥を世界に晒さなくてまことに幸運だったかもしれない( 報道されていれば観光客は激減したであろう )。
しかし、日本にとってこれでいいのだろうか。国民や専門家の検証を受けることなく、領海の問題をカネで解決する。国家の代表が簡単に頭を下げて謝罪する。相手は、台湾の国内法にすら違反している犯罪者。何の目的で遊漁船が国境を越えたのか、基本的な事実関係すら闇に封じて事態の収拾がはかられた。
両政府にとって公開したくない弱みとはなんだったのか。そして誰がどこで仲立ちをして、この「戦争」を回避したのか、理性に欠ける中国国民党議員がみんないっせいに黙ってしまう背景にはなにがあるのか。台北に住んでいる日本人も唖然とするばかりだ。
そして報道の最後を締めくくったのは、沈没船の船長が暮らしていけないと泣き崩れ、政治家がその肩を抱いて、私に任せなさいと励ます記者会見。これは台湾人が大好きなシチュエーション。しかも悪役はニッポン。
この馬鹿げた騒動と同時進行で、中国と台湾の通航交渉が妥結して、いよいよ七月四日から台湾人悲願の両岸直航定期便が飛ぶことになった。当面毎週三十六便(往復)で今秋には倍増する計画。
七月十八日からは大陸からの観光客(「陸客」と称する )も解禁というわけで、台湾は「陸客」ブームに沸騰している。
ざっと一年で五十万人。しかも日程は平均10日間。けちな日本人観光客など目じゃないとばかりに、台湾観光産業は日本から中国へとシフトを大転換する。全国の観光施設、バスの運転手にも特別な指導がおこなわれたという。これからは「礼儀正しく!」である。
中国との友好ムード高まりの一方で、日本との間でみせた亀裂。今週は、台湾外交の大方向転換を象徴する一週間として記録されることだろう。
・馬英九政権は相変わらず、閣僚のグリーンカード問題で揺れる。しかし台湾のちょっとしたカネモチはみんな「二重国籍」。民進党の追究も迫力がない。
・「中国時報」が職員の半分六百人の首を切ると発表。事実上、台湾を代表する日刊全国紙としての地位を放棄するものといえる。住民の新聞離れがすさまじい。
・台北の中正紀念堂の蒋介石の銅像が原状を回復した。
・中国の交渉代表が来台の際、馬英九総統には、「馬先生」と呼ぶことになったらしい。彼らにとっては、馬英九は省知事に過ぎない。「先生」も妥協の産物か。
・腸管ウイルスによる感染症が流行。二百人以上が発症し、八人の子供が死亡。政府は、就学前の子供の外出に注意を促す。この時期、日本人観光客も子連れの夜市散歩などは避けたほうが無難。
・今日6/20、交流協会(日本大使館)の副代表が改めて遊漁船の船長宅を訪問し、海上保安庁第11管区海上保安本部からの「おわび」の文書(日本語)を渡し、賠償を約束。台湾メディアによると、福田首相と馬総統が直接収拾策を決定したという。
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