![]() 【ウィンザー・ホテルにどこか似ているハンザッド・ホテル(イラク・クルディスタン)】(FILE/撮影:坂本卓) |
ホテルは、イラク戦争開戦時からずっと米軍がまるごと借り上げ、作戦指令部として使っていた。米軍がいたころは、周囲を鉄条網が囲み、軍用ヘリが頻繁に離着陸し、写真撮影は厳禁だった。
借り上げ期間が終了したいまは一般客も宿泊できるようにはなったが、高額な宿泊費なため、泊まったことはない。首相府の式典や外交官らのパーティーの取材で行った程度だ。復興バブルに沸くクルディスタンには、外国からの宿泊客やビジネスマンが急増し、高い宿泊料でも客は絶えない。
これと対照的なのが、バグダッドやモスルだ。外国人、要人、ビジネスマンが宿泊するホテルは、武装勢力の格好の標的となり、頻繁に爆弾攻撃やロケット弾攻撃が加えられた。
![]() 【自動車爆弾で吹き飛び、崩壊したジャバル・ホテル】(2004年/バグダッド/撮影:坂本卓) |
4年前、バグダッドのとあるホテルのレストランで食事をしていたときの話だ。
レストランの入口に米兵がやってきた。ヘルメットをかぶり、自動小銃を携えている。
「コーラはあるかい」
そう言って、従業員に1ドル紙幣を突きだした。
レストランの支配人が歩み寄る。彼はイラクの伝統楽器ウード奏者としても知られた男だ。
支配人は、米兵を前に、丁寧な英語で静かに言う。
「ここはレストランです。一般のお客様が食事を楽しむ場です。銃をもった方は、お帰りください」
米兵は言い返す。
「コーラを買いにきただけだ。銃は規則だからいつも持ってなくてはいけないんだ」
支配人は背筋を伸ばして、言った。
「では銃を置いてきてください。武器持込禁止が当レストランの規則です」
「ガッデム」
と吐き捨て、米兵はそそくさと出て行った。
しばらくの沈黙のあと、客の一部から拍手がおきた。
いくつものホテルが治安悪化で廃業に追い込まれた。誇りをもって働いていた従業員たちも、仕事が継続できなくなり、イラクを去っていったものも少なくない。
<< 前 │ 次 >>
***********************************
イラク・トルコ・イラン・シリアにまたがるクルディスタン。分断民族クルド人とは。クルド問題とその他の地域も取材中(坂本卓/アジアプレス)






