北部モスルはいま (1) 写真・文 玉本英子
イラクで最も危険な街
![]() 【米軍の空爆で破壊された建物。4年前のファルージャ虐殺を思い起こさせた(スナア地区)】 |
バグダッドから北へ400キロ、イラク北部最大の都市、モスル。チグリス川の恵みを受け、かつてニネヴェと呼ばれた街は、聖書にも名を残すほど歴史が深い。
そこはいま、「イラクで最も危険な街」と呼ばれている。市内には武装勢力の潜伏拠点が点在し、米軍とイラク軍による掃討作戦が繰り広げられている。
3月下旬、私はイラク軍第二師団の部隊に同行してモスルに入った。限られた形の取材であったとしても、現場に入り、少しでも人びとに近づきたいと思った。
「ここでは政府も法律もない」
兵士がそう言った。傍らの兵士たちもうなずく。
この数年、米軍はイラク軍の再編に力をいれてきた。訓練を受けたイラク兵が戦闘の最前線に投入され、米軍が後方から支援する形になった。武装勢力は、「占領の協力者」とみなし、イラク軍に攻撃を加える。
モスルにはシーア派がほとんどいないため、バグダッドのような宗派抗争はないが、クルド人や政府協力者などに対する誘拐、暗殺はあとを絶たない。自爆攻撃も頻発する。
![]() 【棚が空っぽの食料品店。ツケで買い物をする住民が増えてきたため、現金が入らず仕入れができない(ケンディ地区)】 |
市北部のケンディ地区は治安が回復してきたといわれる地区だ。ヘルメットと防弾チョッキに身を包み、イラク軍兵士たちとともに路地を歩いた。住宅と商店が立ち並ぶ。通りにたむろする青年たちの冷たい視線を感じる。
「こんなところに日本人が来たのか?」
私の姿を見つけた商店の従業員やお客さんたちは目をまるくした。イラク軍兵士を前にして、人びとは政治的なことには口をつぐんだが、生活について聞くと口々に不満を訴えた。
「治安がない。電気がない。仕事がない」。アハメッド・マハムッドさん(35)の理髪店は、この1年で客が3割に減った。
「地区の男たちは週1回この店で髭を剃るのが習慣だったが、今ではみんな失業して誰も来ない」
(つづく)
(週刊金曜日掲載記事を加筆・修正)
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