坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(5) 「狙撃だ」

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【イラク軍が銃を向ける先は、サドル派民兵マハディ軍の狙撃兵がいる地区】(2007年/バグダッド)
ことばで読み解くイラク(坂本卓)
戦争とその後の混乱。人びとはどんな思いで生きているのか。ことばからイラクを読み解く。
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カナアス・ダ・イェルミ

「狙撃だ」
バグダッドの住宅街。
「パーン」と、乾いた音が響く。
「狙撃だ!」
誰かが叫ぶ。路上にいた人びとはビクッと身をかがめ、近くの商店や家に駆け込む。
こどもたちは、肩を震わせながら、狙撃がやむのをじっと待つ。

するとまた、パーンという銃声があがる。ゆっくり1発づつ撃ってくる。狙いを定めた狙撃だ。
どこから撃ってくるのかはわからない。
スンニ派、シーア派の武装勢力の双方が、相手宗派の地区に向けて、毎日、こうした狙撃を加えていた。

【「狙撃には狙撃で対抗する」と話すイラク軍兵士(左)と筆者(右)。カラシニコフ銃に狙撃用スコープをつけていた】(2007年)
自爆や仕掛け爆弾にくわえ、人びとを苦しめてきたのが、狙撃(カナアス)だ。カナアスは「狙撃」という行為でもあるし、狙撃兵(スナイパー)や狙撃銃も意味する。「狙撃だ」と意訳したが、厳密には、「狙撃兵が撃ってきている」となる。

イラクでこの言葉が目だって使われるようになったのは、武装勢力が狙撃戦術を用いだした時期ではなく、2004年のファルージャでのことだった。

この町で武装勢力掃討作戦を展開した米海兵隊は、空爆や砲撃のほかに、地区によっては狙撃班を積極的に投入した。

2004年、米軍包囲下のファルージャを取材したとき、住民は口々に話した。
「動くもすべてを狙い、次々銃撃を加え、人間が殺されていった。ゲームでも楽しんでいるかのようだった」

武装勢力を搬送している、として海兵隊は走行中の救急車を狙撃し、運転手は射殺された。老人が棒に白い布切れをまきつけ白旗にして掲げながら家から出たところ、狙撃で撃ち殺された。

【マハディ軍の民兵。スコープ付の狙撃銃はドラグノフ型のように見える。"民兵"だがRPGロケット砲や迫撃砲まで装備している】(撮影:坂本卓)
一方、武装勢力が繰り広げる狙撃合戦の標的は、米兵やイラク政府軍や敵対宗派組織だけではない。

路上の商店主、ごみの収集にやってきた区役所の清掃作業員、車でとおりかかった家族づれ。やはり誰もが狙われる。こうして地区一帯に緊張状態がつくりだされている。

いつ、どこで、だれかに撃たれるかわからない、という恐怖を与えることも、狙撃のもうひとつの目的だ。

狙われるため、人びとは昼間でもカーテンを閉めなければならず、子どもが路地で遊ぶ姿は見ることもなくなった。

犠牲の大きい爆弾事件はニュースでも報じられるが、狙撃事件が報じられることはほとんどない。爆弾は人の集まるような場所にいかなければ、巻き込まれる可能性も少ないだろう。

だが、狙撃はそこに住んでいる限り、逃れることはできない。
治安状況がかなり改善されたイラクだが、人びとの心を覆う恐怖はまだ消えてはいない。


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坂本卓 「ことばで読み解くイラク」(7) 「靴投げ」

坂本卓
クルドが専門で、アラブは専門ではありません。アラビア語は奮闘中ですが、コーランや文化の影響もあり、クルド語と同じ単語も数多く見られます。バグダッド滞在中にアジアプレス現地スタッフのモハメッドからアラビア語集中講座を受けるも、まだ道のりは長いです。このシリーズでは、これまでの取材とモハメッドからの情報をもとに、いまを読み解く「イラクのことば」を紹介します。

【関連リンク】
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