国家が情報隠蔽をするとき(41)――第1部 米兵犯罪裁判権をめぐる日米密約【吉田敏浩】

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横須賀米兵強盗殺人事件現場
横須賀の米兵強盗殺人事件の現場である雑居ビル入口。
国家が情報を隠蔽するとき





40 横須賀、米兵による強盗殺人事件

防衛省が赤嶺政賢衆院議員(共産党)に提出した資料によると、1952年度~2006年度の在日米軍による事件・事故の件数と死亡者数は、公務中で47650 件・517 人、公務外で157135件・564 人にも上る。ただし防衛省が把握した限りのデータで、1972年の日本復帰前の沖縄での事件・事故は含まれていないため、実際はもっと多い(『しんぶん赤旗』2008年3月22日)。

この事実を教えてくれたのは、神奈川県横須賀市に住む山崎正則(61歳) で、亡き妻の佐藤好重はおびただしい米兵犯罪の被害者のひとりである。

2006年1月3日の早朝、まだ人通りの少ない午前6時27分頃、出勤のため京浜急行横須賀中央駅に急ぐ好重(当時56歳)は、米海軍横須賀基地を母港としていた空母キティーホークの乗員ウィリアム・リース上等水兵に道を聞かれ、立ち止まったところを襲われた。

リースは好重のバッグをつかんで奪おうとし、顔面を殴って歩道に転倒させ、近くの雑居ビル入口に引きずり込んだ。殴る蹴るの凄惨な暴行を加えた。襟首を両手でつかんで体を引きずり上げ、コンクリート壁の角に叩きつけ、倒れた好重の顔や腹部を何度も力一杯踏みつけた。暴行はおよそ10分間続き、好重は殺された。

夜通し酒を飲んで有り金を使い果たしたあげく、金目当てにうろついていたリースは、好重のバッグに入っていた現金約15000 円を奪って逃げた。

好重は右腎臓と肝臓が破裂して、出血死した。肋骨が6本折れて内臓に突き刺さり、顔面と頭部も裂けて血まみれとなっていた。犯行現場近くの駐車場の防犯カメラのビデオには、殴打の音、好重の悲鳴と「助けてーっ」という叫び、リースの「マネー」という怒鳴り声が録音されていたことが後にわかった。

この朝、好重は早く起きて自分の弁当をつくり、夫の山崎の食事の支度をした。バスの運転士だった山崎は休日にあたり、まだ横になっていた。派遣社員としてバスの清掃の仕事をしていた好重は、正月だったが、出勤日なので出かけた。
         
「俺も起きようか」と山崎が声をかけると、好重は「仕事で疲れてるだろうから寝てていいよ」と言った。それが二人の最後の会話になった。好重が殺された場所は、自宅のあるマンションから歩いて5分たらずのところだった。

リースは犯行現場を立ち去ったあと、近くのコンビニのトイレで、血のついた手を洗い、サンドウィッチとミネラル・ウォーターを買って、横須賀基地にもどっている。

翌日、リースは横須賀基地で身柄を拘束され、1月7日に神奈川県警に引き渡されて逮捕された。そして、6月2日に横浜地裁で無期懲役の判決を言い渡された。現在、服役中である。

「裁判のときに証拠として、犯行現場近くの駐車場の防犯カメラのビデオが映されました。ただ道路が写っているだけでしたが、リースの怒鳴り声、好重を殴る音、好重の悲鳴が法廷に流れました。『痛いっ』、『助けてーっ』と好重は何度も叫び、最後に、息の音が止まるような呻き声が聞こえました。私は傍聴席で泣きました。好重はあのとき、私に助けを求めていたのです。しかし、何もしてあげられませんでした。どんなに怖かったか、苦しかったか、それを思うとたまらない思いです。この悔しさ、情けなさは一生消えません」と、山崎は語る。

山崎によると、そのとき法廷でリースは、裁判長からビデオを見るように促されるまで、ビデオを見ようとしなかったという。

つづく(文中敬称略)

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