国家が情報隠蔽をするとき(43)――第1部 米兵犯罪裁判権をめぐる日米密約【吉田敏浩】

判決の日
判決の日、横浜地裁に向う原告の山崎正則氏と弁護団と支援者たち。
国家が情報を隠蔽するとき





42 裁判で原告側は在日米軍の責任を追及した

2009年5月20日、横浜地裁で、山崎ら遺族が加害米兵と国に対して損害賠償請求をしていた裁判の判決が言い渡された。米兵、ウィリアム・リースに対しては不法行為の責任を認め、約6500万円の支払いが命じられた。しかし、国(日本政府)の責任は認めず、請求は棄却された。

原告側は裁判で、在日米海軍上司らによる加害米兵に対する監督権限不行使の違法性(監督義務違反)を訴え、それが大きな争点となっていた。

判決文によると、原告側の主張は概ね次の通りである。

在日米海軍人らが他人に危害を加える高い蓋然性が予測され、米海軍上司らがその発生を防ぐ措置をとることが可能だった場合、または、その発生の危険性があり、米海軍上司らが監督権限を行使すれば防げた場合、米海軍上司らはその監督権限を行使して犯罪の発生を防止すべき義務を負う。そして、米海軍上司らが監督権限を行使しないことによって犯罪が発生した場合には、国(日本政府)は、安保民事特別法第1条に基づき、被害者に対して損害賠償責任を負う。

安保民事特別法第1条は、米軍人や軍属が「その職務を行うについて日本国内において違法に他人に損害を加えた」ときは、国の公務員または被用者が「その職務を行うについて違法に他人に損害を加えた」場合の国家賠償法の規定に準じて、国が「その損害を賠償する責任」を負うと定めている。

つまり、勤務時間外(公務外)の犯罪でも、在日米軍上司らに監督義務違反があれば、民事特別法第1条に基づき、職務執行中(公務中)の米兵の不法行為による損害に対し、米軍に代わって日本政府が賠償責任を負うという、その規定を適用べきだと、原告側は主張したのである。

原告側は、在日米軍人の犯罪が頻発している現状において、特に飲酒が絡む犯罪が増加し、午前0時~6時の深夜・早朝に在日米軍人の犯罪が多く発生している事実を述べ、その実態と犯罪発生の蓋然性を在日米海軍上司は予測していたはずだと指摘したうえで、こう主張した。

在日米海軍上司らは、門限を午前0時とする外出規制、午前0時以降の飲酒禁止、犯罪防止のための隊内教育、MPなどによる飲食店街での深夜パトロールなど、犯罪防止のための措置をとることは可能であり、そのような監督義務を果たす必要がある。

ところが、在日米海軍上司らは外出規制や飲酒規制などの監督義務を怠り、その結果、この強盗殺人事件が発生した。だから、米軍に代わって国が損害賠償すべき責任を負う。

なお、ウィリアム・リースの犯行が勤務時間外に、米海軍人としての職務行為自体とは直接関係なくおこなわれたものである点に関して、原告側は次のように主張した。

在日米軍人は米軍当局の命令で日本に配属され、日米地位協定第9条2項により旅券や査証や外国人登録など日本の法令の適用から除外されている。だから、在日米軍人にとって日本に駐留すること自体が職務というべきだ。

従って、勤務時間内・勤務時間外のどちらであっても、米海軍人を監督する権限を在日米海軍上司らは有している。実際、在日米海軍当局は外出規制や飲酒規制などを発令することによって勤務時間外の米海軍人を監督している。在日米海軍上司らの監督義務は、勤務時間内・勤務時間外を問わず、常に米海軍人に対して及んでいる。  

このように原告側は、米兵犯罪を単に米兵個人の責任として終わらせるのではなく、米兵の日本におけるあらゆる行為の結果に在日米軍は組織として責任を持つべきであると、訴えたのである。それは、在日米軍に組織として責任をとらせることが、米兵犯罪の防止にもつながるとの考えからだ。

しかし日米地位協定では、日本の裁判所で米軍すなわち米国そのものを相手取っては提訴できないようになっている。地位協定第18条第5項の規定で、米軍に日本の法律上責任がある場合、損害賠償請求を処理するのは日本政府となっている。

だから、国を相手取って裁判を起こしたのは、地位協定の規定に基づいてのことだが、それとともに、米軍を日本に駐留させている日本国家の責任も問うているのである。

米兵犯罪は日米安保・地位協定の構造的な問題として捉えなければならない。

つづく(文中敬称略)

    
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