ネパール ~ モラルを失ったUML【小倉清子】

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「期限内に憲法はできない」(2010/4/15)

4月に入ってから、カトマンズでは毎日30度を超えているそうである。今年は記録的な高温であると何度か報道されているが、確かに暑い。降雨量も少なく、さらに気温上昇がつづくそうだ。今年の夏はフィールド取材に行こうと思っていたが、山歩きに耐えられるだろうかと心配になる。

 主要政党のトップ・リーダーがついに、「5月28日までに憲法はできない」と名言した。統一共産党のジャラナス・カナル党首である。「期限内にできると話している政治家もいるが、国民をだますべきではない」とまで言った。誰が見ても期限内に憲法ができないことは明らかであるのに、言い出した人が批判の的になるという恐れからだろうか、プラチャンダもネパール首相も、いまだに「やれば、できる」などと言っている。残されたオプションは、制憲議会を解散するか、暫定憲法を制定して任期を延長するかである。"解散"は、大変な政治的危機を意味するが、任期を延長するにしても、政党リーダーは延長した期限内に今度こそきちんと憲法を制定できることを国民に証明してみせるべきだ。今の政治状況では、何度も任期を延長したところで、憲法ができるという保証はない。

 ネパール首相の辞任問題が宙に浮いているかぎり、制憲議会の任期延長の問題も決まらないだろう。合意に基づく、すなわち、マオイストも含めた新政権樹立のために、ネパール会議派はマオイスト軍の統合・リハビリ問題へのマオイスト側の協力、占拠した土地の返却、そして、YCLの半武装組織の解体という条件をだしている。これらの問題で、マオイスト側の大幅な譲歩を求めているといっていい。これはつまり、容易なことで合意が成立することはないということだ。 

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"最悪のシナリオ"のための準備(2010/4/17)

マオイストは昨日開かれた政治局会議で、現政権が辞めないかぎり、制憲議会の任期延長には応じないことを決めた。予測された動きである。マオイストはとりあえず、4月22日と5月1日に反政府の集会を開くことを決めているが、今の状況を見ていると、政府もマオイストも容易に譲歩するとは思えない。さまざまな報道を総合すると、マオイストは"最悪のシナリオ"を想定して、すでに準備を始めているようだ。最悪のシナリオとは、つまり、現政府が辞任をせず、制憲議会が解散されるという状況である。そのための準備とは、政府がマオイスト弾圧に乗り出したさいの"衝突"を予測して、それに対処するためのものである。

新聞やオンライン版のニュースを見るときに、私は地方から発信されたニュースに目を向けるようにしている。最近、頻繁に目につくのは、東ネパールで、マオイスト軍の失格者を含めたパラミリタリー部隊が新たに結成されているというもの。もう一つはロルパでのマオイストの動きである。今日の日刊紙Kantipurのオンライン版ニュースによると、マオイストはロルパで若者を集めて武装訓練を行っている。ネパール会議派や統一共産党は、YCL内のパラミリアリー組織を解体することを要求しているが、マオイストの動きはその逆を行くともとれるようなものである。

政府もマオイストもこのまま頑なな態度を維持すれば、制憲議会は解散ということになる。その後、どうなるのか。現在の暫定憲法を憲法として公布し、連邦制の詳細を決める委員会を発足させ、制憲議会は解散しても、暫定立法府の機能は残すなどという法律家の案もあるようだが、いずれにしても、現在早急に必要なのは、主要政党間の真剣な話し合いと合意である。毎日ニュースになる政治家の発言を聞いていると、事態は"対立"に向かっているとしか思えない。

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モラルを失ったUML(2010/4/19)

最近のニュースを見ていると、統一共産党(UML)がいかに腐敗した政党であるかを示すものが目に付く。昨日発売された週刊誌Nepalには、ネパール首相が現政権への支持を勝ち取る目的で、議員を"買おうとした"試みに関する記事が掲載されていた。各議員には、自身の選挙区で使える開発予算が計上されるが、自党内の議員が首相辞任を求める署名キャンペーンを始めたことが明らかになったあと、ネパール首相とUMLの閣僚は、地方開発省を通じて、自党の議員にのみ追加予算をばらまこうと試みたと記事にはある。財務大臣(スレンドラ・パンデ)が自党の閣僚であるからこそできることだが、現財務大臣が自党のためにこれまでのどの財務大臣よりも多額の国家予算を使っていることは、すでにさまざまなメディアが報道していることである。これに関しては、UML内部のリーダーでさえ、「議員に対する賄賂である」とコメントしている。

土曜日には、UMLの党本部の敷地内で、ジャパ運動の闘士だった60歳代の男性が自殺しているのが見つかった。ジャパ運動の最後に逮捕され、10年間投獄されていたこの男性は、経済的に困窮しており、自分の息子に仕事をくれるよう閣僚に頼みにきた。党本部に宿泊しながら、ネパール首相やラワル内務大臣に陳情に行っていたという。新聞報道によると、ラワル内務大臣がきつい言葉を使ってこの男性の要求を拒絶したことが自殺の原因ではないかと疑われている。UMLはジャパ運動の闘士が中核となって結成された政党だ。ラワル内務大臣は、ガッチャダール副首相の要請に応じて、彼の娘婿である警察官を昇進させた。個人的な関係から、西ネパール出身の警官幹部が大勢昇進させたことは周知の事実である。しかし、かつてのジャパ運動の闘士の老人には、けんもほろろな態度をとっている。ビデャヤ・バンダリ国防大臣も、先日のバルディヤ国立公園で起こった女性3人の射殺事件や、マイナ・スヌワルの殺害事件で、ネパール軍をかばうばかりで、被害者家族に大変冷たい態度をとっている。これらの例は、UMLの閣僚がいかに非人間的であるかを示す例にすぎない。

バルディヤ国立公園の事件の軍士官や兵士は、結局罰せられることなく終わりそうだという報道もある。ネパール軍内部の人間の不祥事が相続いているにもかかわらず、現政府は軍をかばうばかりで、明らかに罪を犯した人間を罰することもしない。倫理やモラル、党員に対する思いやりを失った政党は、今後ますます衰退することになるだろう。

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小倉 清子
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ネパール王制解体
- 国王と民衆の確執が生んだマオイスト


 著者:小倉清子 
 出版:日本放送出版協会 
 定価:1218円(税込)
 <2007年1月刊>

 13年にわたる現地取材により明かされるマオイストの真実の姿。政府軍の空爆下、マオイストの拠点であるタバン村に赴くなど、命がけの取材を敢行し、党首プラチャンダはじめ、幹部、コマンダーへの徹底した聞き取りを実行。
 また90年代の民主化運動から継続的にネパールを見続けてきた経験をもとに、王政崩壊の新局面を迎え、激動するネパールの現在を鮮烈に描く。

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