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リムジンガン1号~7号

復刻連載「北のサラムたち1」第44回 中国で体験した擬似北朝鮮社会とは(4) 壊れる心 6人の越境者が密告合戦

タバコ畑で作業する越境者のポクスニさん。北朝鮮では鉄道員だったという。中国で仕事を紹介してほしいと頼まれたが…。1998年夏撮影石丸次郎

ここだけの話ですが…

「ここだけの話ですが、僕を内陸の街に連れて行ってもらえませんか?」

打ち解け始めると、チョリはしきりに芦果村から連れ出してほしいと言い始めた。と同時に、頼みもしない「ご注進」を始めたのである。

「ここだけの話ですが、密輸屋の連中が記者先生(筆者)のことを怪しいと言っていましたよ」

といった具合に、誰々がどんなことを言った、嘘をついている、気をつけたほうがいい云々……といったことを私に攝きかけるのだ。当然、私には警戒心が芽生える。チョリの口から出る「ここだけの話ですが……」という「ご注進」の枕詞は、私の気分を次第に疑心暗鬼の暗い沼の淵に導いていった。

畑仕事の合間に、もう1人の女性・ポクスニにビデオカメラを向けてインタビューを試みた。身分を明かしたがらない難民たちは、普通、撮影をとても嫌がるのだが、ポクスニは、あえてビデオカメラを無視するように、淡々と身の上話を始めた。

30歳だという彼女は、北朝鮮で相当陽に灼かれて暮らしてきたのだろう、真っ黒に日焼けしていた。またそれをえらく気にしているようで、

「私は数年前まで鉄道員をしていました。こう見えても、その頃は、肌は真っ白だったんですよ」

と、元来自分は飢民になるような境遇ではなかったことをしきりに強調した。

「鉄道員にも配給がなくなり、おまけに夫が事故で死んでしまったんです。食べさせられなくて、清津市にいる私の母に2歳になる子どもを預けてきました。母は『絶対に捕まるな』と言って涙を流して私を送り出しました。中国でお金を稼いで送りたいので、どこか働く場所を紹介してもらえませんか?」

中国では私もよそ者である。仕事の紹介など簡単にはできない。知り合いに当たってみますよ、そう答えて何人かに電話をかけてみたが、答えは芳しくなかった。北朝鮮難民を雇ったことが発覚すると罰金を取られるので、皆二の足を踏むのだ。
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