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リムジンガン1号~7号

南アフリカで聴く虹色の歌声 タウンシップで呑んだ夜<ひと握りのアフリカ -7>

断崖が続く喜望峰、味も景観もすばらしいワイナリー、手軽に楽しめるサファリツアーなど、南アフリカ共和国(以下南ア)の観光資源は枚挙にいとまがないが、南アの魅力は自然美だけではない。様々に異なる人々が共に暮らす姿もまた、この国を特徴付ける大切な魅力のひとつだ。南アの多様さを確かめたく、2つのコンサートを訪ねた。(岩崎有一)

私が過ごしたコパノンB&Bの寝室。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

ケープタウン国際空港でレンタカーを借り受けた私は、ケープタウン郊外のタウンシップ(旧黒人居住区)のひとつ、カエリチャにある宿を目指した。タウンシップを訪ねることも、そこに滞在することも初めてだったため、多少緊張していたが、空港から宿までは何のトラブルもなくあっさりと到着した。宿の名は「コパノンB&B」。自宅の一部を宿泊施設とした、ホームステイに近い形態の宿だ。

私の部屋にはベッドと椅子、小さなテーブルが置かれ、その隣にバスルームがある。トイレの水はきちんと流れ、シャワーの蛇口をひねれば、温かい水がたっぷりと出てくる。シーツからは漂白剤の匂いが漂い、床はきれいに掃かれていた。寝室として、何ら申し分ない。
関連写真:1995年からアフリカ取材続ける岩崎有一が撮った「遠い大陸」(30枚)

私がこの宿を選んだ理由は、地元紙ケープタウンマガジンに見つけた、宿のご主人のコメントにある。

居間は家族とゲストとの共用となる。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

「私は、観光客にタウンシップを体験してもらいたくて、私たちのタウンシップで一晩を過ごしてもらうことができるように、この宿を開くことを決めました。私は、観光客に話しかけてもらいたかったんです。(中略)観光客が自動車の窓越しに(私たちが暮らす)カエリチャを見る光景には、もううんざり。カエリチャは動物園じゃないんですから。(CapeTownMgazine.comより引用。筆者訳)」

ご主人の気持ちにも、観光客の気持ちにも、頷けるところがある。

長年多くの観光客を迎え入れ続けているケープタウンだが、観光客がタウンシップを訪ねることは稀だ。目的地から目的地へと移動する際に、車窓からタウンシップの町並みを眺めるばかりで、一般的には、タウンシップの中へと入ってくることは、まず、ない。一方、観光客としても、特段の見どころがあるわけではなく、南ア在住の地元民も勧めないタウンシップを、わざわざ訪ねたいとは思わないだろう。そんな、長く続いてきたすれ違いに一矢報いたいとの気持ちがご主人の言葉に感じられ、そこに共感するものがあったため、私はこの宿を選んだのだった。

コパノンB&Bのムパ。優しい人だった。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

ご主人との会話を楽しみにしていたのだが、残念ながら彼女は体調を崩し、部屋で寝たきりの状態。私の滞在中は、ひとり娘のムポが相手をしてくれた。

彼女に連れられて、宿の周囲を歩いた。

静かな町だった。道の両脇には、決して古くはない家並みが続く。ムポによると、だいたいどの家も同じ作りで、壁や屋根、ドア、窓枠など家の構成要素はある程度パッケージ化されているとのこと。豪華さは感じられないが、貧相ということもなく、生活排水が放つ汚臭が漂っているようなこともない。自家用車が停められた家はいくつもあり、私のレンタカーが目立って困ることもなかった。壊れていない遊具のある幼稚園があり、ドアも窓もしっかりとした小学校がある。信号は規則正しく機能し、自動車は歩行者に道を譲っている。アジア人である私の存在は極めて目立つものだったが、すれ違う人から刺すような視線を向けられることもない。誰もが危ないと言うタウンシップにかなり構えていた私にとって、町の様子は、あまりにも穏やかなものだった。
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