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リムジンガン1号~7号

南アフリカで聴く虹色の歌声 新進気鋭のタウンシップ・カエリチャ<ひと握りのアフリカ –8>

断崖が続く喜望峰、味も景観もすばらしいワイナリー、手軽に楽しめるサファリツアーなど、南アフリカ共和国(以下南ア)の観光資源は枚挙にいとまがないが、南アの魅力は自然美だけではない。様々に異なる人々が共に暮らす姿もまた、この国を特徴付ける大切な魅力のひとつだ。南アの多様さを確かめたく、2つのコンサートを訪ねた。(岩崎有一)

カエリチャ東部の街並み。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

ケープタウン郊外のカエリチャは、1985年に形作られて以来ぐんぐんと拡大し、東京都江東区ほどの面積にまで成長したタウンシップだ。活気みなぎるカエリチャには、地域によって異なる様相が見られる。私は、カエリチャ内では富裕層の多い西側から、貧困層が多いとされる東側へと宿を移した。

カエリチャ東部では、西部とは家並みがはっきりと異なる。西部では外壁がコンクリートで作られたしっかりとした家屋が多いが、東部ではトタン板や木片、廃材で作られた家が目立つ。傾いたり潰れかかった家屋や、隙間を塞ぐためにビニールシートで覆っている家屋も多い。現地の人々がSHACK(小屋)と呼ぶ、この簡素な家屋が立ち並ぶ様子は、南アのタウンシップ特有の典型的な風景だ。

カエリチャ東部では、SHACKと呼ばれる簡素な家が目立つ。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

陽が傾き始めると、道路で遊ぶ子どもの姿が増えてきた。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

東部で私が過ごした宿は、Lungi’s B&Bという名の小さなゲストハウスだった。このゲストハウスの外観も、トタン屋根をいただいた、周囲の家屋と比べてもなんら違和感のない造りとなっている。

しかし、ドアを開けて中に入ったところで、タウンシップに抱いていた私の先入観は呆気なく覆された。

天井から自然光を取り入れた中心部の居間は明るく、広い。ソファには、まだ洗濯石鹸の香りが残るカバーがされたクッションが置かれている。床は、落としたパンを拾って食べることも厭わせられないほどに綺麗だ。居室には、ノリの効いたシーツと枕カバーを伴ったベッドがあり、バスルームのタイルは目地に至るまで磨き上げられている。バスタオルと洗顔タオルが別々に用意され、タオルにはオレンジ色の糸で「Lungi’s」と刺繍が施されていた。ゲストハウス内を一巡しただけで、快適に過ごせることが瞬時に伝わってくる。

Lungi’s B&Bの居室。塵ひとつ落ちていない(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

Lungi’s B&Bのリビング(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

このゲストハウスを営むルンギは、長く家政婦として働いてきた女性だ。それまでに培った経験を活かせる仕事がしたいと、2010年にこの宿を開き、これまで多くのゲストを迎えてきている。建物はルンギの家族と共用しており、配管工の夫と、父の仕事を手伝う長男、母とともに宿を維持する長女らと、ゲストは居間でともに過ごすこととなる。

ホテルと比べればプライバシーは少ないが、適度な距離感を持って接してくれるため、気疲れとは無縁だ。ルンギ一家との団らんは楽しく、独りで過ごすよりも、ずっと有意義な時間を過ごすことができた。

Lungi’s B&Bとルンギと旦那さん(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

ルンギがあり合わせの食材で昼食を作ってくれた(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

滞在客のほとんどは西欧や北米からの観光客だ。また、滞在はせずに、ルンギが案内するタウンシップツアーに参加するためにだけ、ここを訪れる人も多い。ツアーと言えども、バスに乗ってあちこちを巡るわけではない。2時間ほど、ルンギとともに、時には旦那さんも加わって、カエリチャの街を散歩するだけのものだ。このツアーが、なかなかいい。

小学校、保育園、雑貨店、老人養護施設、民芸品を作る職人の工房などを訪ね巡りながら、ゆっくりとした足取りで散策した。コンテナを改造して店にした散髪屋、路上に置いた机で肉をさばく肉屋、屋根がひしゃげた店内にびっしりと商品が並ぶ八百屋など、散歩しながら目に入ってくるひとつひとつを、ルンギが説明してくれる。この散歩を介することで、タウンシップが、カエリチャが、ぐっと身近なものとして感じられてくる。

散策中に訪ねた保育園。保育園の様子は、日本とさほど変わらない。紙おむつを交換中(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

コンテナを改造して店舗としている散髪屋さん(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

散歩をしていると、写真を撮って欲しいと声をかけられることもしばしば。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

写真を撮ってほしいのは、大人だけではなく。(カエリチャ・南アフリカ 2017年/Khayelitsha,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

学校に寄付をするわけでもなく、それぞれの店で必ずしも買い物をするわけでもなかったが、物見遊山で街を巡る外国人のこちらに対して、嫌な顔をする人とは誰一人出会うことはなかった。散歩のコースはだいたい決まっていたのだが、私はここに滞在中、毎日、ルンギとの散歩に加わっていた。取材として有意義なだけでなく、実に心地のいい散歩だった。

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