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憲法の「GHQ押しつけ論」は本当か(2)~GHQ草案にはなかった「生存権」の条項(矢野 宏・新聞うずみ火)

「日本国憲法」第25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

「日本国憲法」第25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

憲法草案はGHQの主導で生まれたが、その後、日本国民によって選ばれた議員が国会で審議している。歴史学の見解はどうなのか、大阪大学・大学院助教の北泊謙太郎さん(日本史学)に話を聞いた。(矢野宏/新聞うずみ火)

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◆GHQ草案に先駆けて、日本のさまざまな団体が憲法草案を作っていた

敗戦直後の日本では、さまざまな団体がGHQ草案に先駆けて、憲法草案を作っていた。その一つが、憲法学者の鈴木安蔵らの「憲法研究会」。民間での憲法制定の準備・研究を目的として結成され、経済学者の高野岩三郎や、ワイマール憲法にも精通していた森戸辰男ら知識層が集まった。研究会内での討議をもとに出てきたのが「憲法草案要綱」である。

「統治権」第一条は「日本国ノ統治権ハ日本国民ニヨリ発ス」と国民主権をうたっており、「国民権利義務」第4条では「国民ハ拷問ヲクワヘラレルコトナシ」と、自由民権運動家だった植木枝盛の憲法草案の影響を受けている。

鈴木らの憲法草案要綱は45年12月26日に発表され、日本政府やGHQにも提出された。
「この憲法草案要綱がGHQ草案に影響を与えたことは間違いありません」と北泊さんはいう。民政局法規課長として中心的な役割を果たしたラウエル中佐が生前に残した録音テープが残っている。「私個人は、その民間の草案に感心した。大きな一歩の前進になったと思いました。民間の草案要綱を土台として、いくつかの点を修正すれば、GHQ司令官が満足するような文書を作成できるというのが私の意見でした」(2007年制作『NHKスペシャル日本国憲法誕生』)

憲法草案はGHQの主導で生まれたが、その後、日本国民によって選ばれた議員が国会で審議している。その中で、注目すべきは、GHQ草案にはなかった「生存権」の条項だという。提案したのは、憲法研究会の一人で社会党の代議士でもあった森戸だった。「森戸は戦後、多くの戦災孤児が存在し、国民が飢餓線上にある中で、人間が生きていく生存の条件をきちんと明記しておくべきだと考え、25条に『生存権』の条項が新しく入ったのです」

このほか、GHQ案では、国会は一院制を採用するつもりだったが、政府の希望で二院制にするなど、現行憲法は国会の中で審議して決めている。北泊さんはいう。「現行憲法は押しつけられた・押しつけたと論じるべきではありません。いろいろな英知の複合体なのです」(了)

◎「憲法改正要綱」から主な内容を抜粋
・「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」トアルヲ「天皇ハ至尊ニシテ侵スヘカラス」ト改ムルコト
・第十一条中ニ「陸海軍」トアルヲ「軍」ト改メ且第十二条ノ規定ヲ改メ軍ノ編制及常備兵額ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルモノトスルコト
・第二十条中ニ「兵役ノ義務」トアルヲ「公益ノ為必要ナル役務ニ服スル義務」ト改ムルコト
・枢密院ノ官制ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムル旨ノ規定ヲ設クルコト

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