北朝鮮の金正恩氏は1月15日の最高人民会議での演説で、首都と地方、都市と農村の格差が甚だしいと指摘し、地方発展のために工場を建設することを命じ「地方発展20×10政策」と命名した。それから1カ月、各地で工場建設に向けた具体的な動きが始まっていることが分かった。(カン・ジウォン/石丸次郎)
「近代的な地方産業工場の建設を毎年20の郡ずつ、10年内に全国の全ての市、郡、全人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させる」。1月15日に金正恩氏は演説で、「地方発展20×10政策」の青写真をこのように述べた。
2月中旬、両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者は、新工場の建設地が告知され、建設のための具体的な労働動員作業が始まっていると報告してきた。
咸鏡北道の今年の新工場建設地は、鏡城(キョンソン)郡と漁郎(オラン)郡だという。茂山(ムサン)郡に住む協力者は、始まった労働動員について次のように伝えてきた。
「『地方発展20×10政策』の建設に、茂山鉱山の労働者が集団的に動員されることになった。人員数は500~600人になるだろう。鏡城か漁郎に3カ月交代で動員されるそうだ。既に人員の選抜が始まっている。職場では、現場で働く『党員突撃隊』と『青年同盟突撃隊』を作ることになり、入隊を嘆願させる集まりを開いて騒いでいる」
※「突撃隊」とは、国家的な建設プロジェクトに動員される建設土木専門の労働部隊のことをいう。主に青年組織から選抜され服務期間が3年程度の常設「突撃隊」と、職場や党員などからプロジェクトごとに選抜される臨時の「突撃隊」がある。
「今年は地方工場の建設で1年が終わりそうだ。茂山郡の労働党委員会に、工事に必要な物資の支援を組織する専門部署が作られた。あらゆるものを総動員するためのお手本を作るのだと幹部らは言っている」
咸鏡北道のA市に住む取材協力者にも、「地方発展20/10政策」の進行状況について話を聞いた。国営企業に勤める労働党員である。
――早くも2月上旬から動員する人たちを選抜している地域があるようですね?
はい。A市でも多くの人を動員することになり、「党員突撃隊」「青年同盟突撃隊」「企業所突撃隊」を組織して人員を集めている。2月末から現地に行かされるそうだ。
――新たに作る工場では何を作るのでしょうか?
漁郎郡に建てるのは水産物加工工場で、鏡城郡には地方特産物と基礎食品の工場を建てるそうだ。まったく新たに現代的に建てるか、あるいは既存の工場の改建(リニューアル)を進めるということだ。
今年はすべての人材を2つの郡の工場建設に総動員すると上では言っている。国が、道ごとに競争させることにしたので、道の党組織は火が付いたように慌ただしくなって、動員する人員を満たせと、下の組織や職場に厳しく督促している。
――「地方発展20/10」は都市と地方の格差を解消するのが目的だと言うがうまくいくだうか?
「地方発展20/10」で、人民生活を画期的に変えるなどと言っているが、早くも不満がたくさん出ている。工場がないから物資がないのではなく、今ある工場には原材料もないし機械設備が老朽化しているからまともに動いていないであって、新しく工場を建てたからといって、いったい何が変わるのかという意見が多い。政府は、工場建設に必要な資材や設備は自ら生産した物(国産品)を使えと強調しているのだが、輸入なしに(調達が)不可能なものが多いのに。これらをどうするつもりなのだろうか。
――漁業が盛んな漁郎郡はうまくいくのではないか?
漁郎郡に作る水産物加工工場では、生産した水産物を人民に販売すると宣伝しているけれど、問題は、いったい誰がお金を払って買ってそれを食べられるのかということ。今、市場では商売もできなくしていて稼ぐこともできないし、(職場に出勤しても)労賃でまず食糧を買わないといけない。水産物をたくさん生産したとしても、金が無くて買える人はあまりいないはずだ。
両江道では金亨稷(キムヒョンジク)郡に新工場を建設することになったと、両江道に住む複数の取材協力者が2月中旬に伝えてきた。金亨稷郡は、金正恩氏の曾祖父の名を冠した朝中国境の町で、標高が1000メートル近くあり、主産業は林業だ。両江道の取材協力者は金亨稷郡への建設について次のように述べた。
「なぜ金亨稷郡のような交通不便で辺鄙な所に工場を建てるのかという疑問が多い。すでに工場の建設工事への動員が始まっていて、普天(ポチョン)郡の住宅建設や恵山(ヘサン)市の公園建設に投入されていた人員は皆撤収させて、金亨稷郡に送り込まれことになったそうだ。道内の他の建設はいったんすべて止めるということだ」
金亨稷郡がただ辺鄙だというだけではなく、地方に新たに工場建設するというプロジェクトそのものについて、この協力者は疑問を呈する。
「人民生活を高めるためだとか言っているが、今ある工場すら、原料も電気も供給できずにまともに動いていないのに、なぜ別の工場を作ろうとするのか理解できない。設備投資して活性化させるのだそうだが、どこに金がありますか? 幹部たちは頭を抱えていると聞いた」
都市と地方の格差解消という題目は悪くない。だが、実効性に問題があるとしたら、金正恩氏が大々的にこのプロジェクトを始めようとする意図は何なのだろうか?
「2024年は、地方建設という名分で1年中動員され、建設を支援しろと宣伝することに明け暮れると思う。(政府は)ある時は『強盛大国になる』と言い、またある時は『社会主義の勝利が見える』と言っていたが、実現できたものは何もない。今回も、道ごとに課題を与えて、あれこれとやるべき仕事を作って人々を煽動して駆り立てるつもりなのだろう。そんな不平不満を言う人たちも多い」
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
2月16日は北朝鮮の「光明星節」。2011年に死亡した金正日氏の生誕記念日だ。北朝鮮では4月15日の「太陽節」(金日成生誕記念日)と並んで民族最大の祝日として扱われている。
1990年代以前は、「光明星節」には住民や労働者に食品や酒、雑貨、学生服、菓子などの特別配給が、指導者からの贈り物として住民に無償で下賜された。しかし、経済が悪化してからは質も量も劣悪になった。今年はどんな雰囲気だったのか。両江道(リャンガンド)の状況を4月15日に取材協力者が伝えてきた。
「今年は生徒たちに菓子の贈り物があった以外、住民対象の特別配給は何もありませんでした。いくら財政事情が厳しくても、これまで酒の1本くらいはくれたのに、企業や役所が労働者に出したもの以外はありませんでした。特別配給を国営商店で支給するという噂が10日から出回っていたのですが、結局何もなかった。祝日のような雰囲気もないですね」
「光明星節」の特別配給には2種類ある。前述のように行政機関が全住民を対象に配布するとものと、機関や企業が独自の裁量と責任で調達して労働者に支給するものだ。
「企業所間で特別配給の格差がとても大きい。まともに稼働できていない工場では、今年は特別配給をまったく出せず、労働者が会議で幹部に文句を言ったり、他の職場に移ってやると騒ぎが起きたりしていました」
「光明星節」には、忠誠の歌の公演、金正日氏の追悼の集まりなどの行事が行われる。例年なら学校、青年同盟、女性同盟、企業などすべての組織で行われるのだが、今年は生徒と青年同盟だけで開催され規模が縮小されたという。
「毎年、15日の午後に行事をするのですが、今年は女性同盟の行事が全てキャンセルになって生徒と青年同盟だけが公演をしました。主婦や労働者は(農場に持っていく)堆肥生産と企業ごとの労働課題(ノルマ)に総動員されているので、公演に参加できる人員が大幅に減ってしまい、取り消しになったんです。政府が意図的に金正日の「光明星節」の扱いを小さくしたというわけではないと思います」
なお、アジアプレスでは、2月16日の時点で「光明星節」に関する情報を両江道以外の地域で確認できていない。また、しばらく前から住民対象の特別配給は、国ではなく地方政府が準備するようになった。両江道の協力者が伝える配給内容は、他地域と異なる可能性がある。(カン・ジウォン)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
<北朝鮮内部>韓国は敵だ…金正恩の「断韓」宣言後の国内動向とは(1) 住民は驚きと当惑 全組織で一斉に宣伝と教化作業
「もはや韓国は同族でも統一の対象でもない敵である」。昨年末、金正恩氏はこのように「断韓」を宣言し、韓国はじめ国際社会に衝撃が広がった。肝心の北朝鮮国内では、「断韓」はいったいどのように評価されているのだろうか。国内の反応と動向について、取材協力者の受け止めと社会の空気について報告する。(カン・ジウォン/石丸次郎)
連載の1回目では、両江道(リャンガンド)に住む複数の取材協力者から聞いた「断韓政策」に対する戸惑いと、当局による宣伝教化作業の実際について報告した。今回はまず、 咸鏡北道(ハムギョンプクド)の協力者の受け止めた方と、対南政策転換の目的についての意見を紹介したい。いずれも1月後半に話を聞いた。
茂山(ムサン)郡の協力者は戸惑いの空気について次のように伝えてきた。
「南朝鮮をいきなり敵対国だと言い始めたことについて、周りの人といろいろ言い合っているのですが、何がなんだかよく分からないんです。経済協力すると言っていた(2018~19年に南北経済協力が盛んに議論された)時は、すぐに(我われも)豊かに暮らせると宣伝していましたが、今また(韓国は)敵対勢力だ、統一の相手ではないと言っているので混沌があります」
会寧(フェリョン)市の協力者は、「断韓」するという方針転換の目的について、次のように自身の考えを述べた。
「今回金正恩が、『平和統一はありえない、(韓国を)占領平定する』と言っていますが、つまり我われは軍事強国だから(韓米に)十分に勝てると壮語しているわけです。韓国に強く対抗する理由は、すべて韓国文化に対する統制のためでしょう。こちらで「非社会的主義だ、反社会主義だ」と問題視してずっと強力に叩いている言葉遣いや服装、(不法な)映像物、脱北、中国の携帯電話使用などは、すべて韓国と繋がっていることなので、完全に韓国を遮断しようというのが目的だと思います」
「断韓政策」に関する金正恩政権の主張の柱の1つは、敵対国である韓米との戦争の危機が迫っているというものである。現地の住民たちの受け止め方について、両江道の協力者に1月後半に話を聞いた。
――韓国を平定するとか、核兵器の使用も辞さないと金正恩氏は公言しています。
今、人々の大きな関心事は本当に戦争をするのか、南朝鮮と戦って勝てるのかということです。核を持っていると言っていますが、核戦争になったら皆が死んでしまうではないかと、人が集まるとよく話をします。一方、暮らしがとてもしんどいので、戦争が起きてほしいと言う人もいます。
――戦争を望む人がいるということですか?
戦争が起これば死ぬことになるかもしれないが、今のままよりはましだろうということ。戦争をしようが交渉をしようが、とにかく何か変わってほしいという雰囲気があります。
――韓国や米国との核戦争についてはどんな意見がありますか?
核戦争なったら敵も死ぬしこっちも死ぬことになるから、核は最後に使う武器だ。ただ、守るためだけに持っているので、実際には自動歩銃より役に立たないと言う人もいます。おおっぴらに口に出しては言えないけれど、以前からラジオなどを聞いて外部の情勢を少し知っている人たちの間ではそんな雰囲気です。米国やロシア、中国は核兵器をたくさん持っているが、実際に使うことはできないと言っています。
一方で、「我われは強盗のように、米国と日本と韓国を核で脅して食糧支援を受けようとしているのだ」と言う人もいます。(外部世界について)何も知らない無知な人たちは、「(国のために)総爆弾になる、忠誠を尽くす」と言っているけれど、知識のある人たちは、我われがどれほど無知蒙昧でバカのように生きているのかと話します。
――北朝鮮では自由にものが言えないですね。
今、「流言飛語」や非社会主的現象に対する取り締まりと、「申告体系」が強化されて、人々はますます中央に対する批判を口に出せなくなりました。間違っていると思ってもです。
※住民の発言や素行について相互監視して上部に伝える体系が以前より強化された。政権にとって都合の悪い情報は「流言飛語」=フェイク情報だとみなして、その出処の調査が執拗に行われるようになった。申告する褒美として食糧や現金がもらえるという。
――密告システムが強化されたということですね?
申告褒賞制がしっかりできていて、口はあってもまったく話せない、そんな世の中になりました。企業や組織には幹部たちを対象にした「申訴箱」が作ってあって、「生活総話」とは別に、1週間に1度、義務的に個人と組織を批判する体系ができています。
※生活総話とは、すべての職場や学校、女性同盟や青年同盟などの社会団体で、毎土曜日に開かれる行動反省会議のこと。
これは去年の3月から施行中なのですが、申訴箱の内容をもとに検察や市の党と道の党組織から(企業や組織に)調査、検閲に出てくるので、幹部たちの間でも、上について(政権中枢や金正恩氏について)の話は、よく知る人同士でもできなくなりました。お互いに信じられないのです。
※2019年頃から、無記名で個人や幹部を批判、告発する「申訴箱」が企業や組織に常設されようになった。幹部の不正腐敗や問題行動、発言について告発するシステムとして定着している。(了)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
<北朝鮮内部>韓国は敵だ…金正恩の「断韓」宣言後の国内動向とは(1) 住民は驚きと当惑 全組織で一斉に宣伝と教化作業
昨年末に金正恩氏は「大韓民国は敵であり同じ民族でも統一の対象でもない」と表明し、「断韓政策」を公式化した。北朝鮮政権の看板であった民族同士の自主的、平和的統一路線の放棄である。この大路線転換は国内でどのように説明・宣伝され、住民たちの受け止め方はいかようなものだったのか? 国内に住む取材協力者たちに現況を聞くと、新年早々から大々的な宣伝教化作業が行われている一方、住民たちには当惑が広がっているようである。(カン・ジウォン/石丸次郎)
<北朝鮮内部>韓国は敵だ…金正恩の「断韓」宣言後の国内動向とは(2) 何のための敵対政策? 北住民たちに考えを聞いてみた
昨年12月26日から30日まで開催された労働党中央委員会全員会議(以下「全員会議」)での報告で、金正恩氏は南北朝鮮の関係を「同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係」と言明。今年1月15日の最高人民会議の演説でも、「憲法にある『北半部』『自主、平和統一、民族大団結』という表現は今や削除されなければならないと思う」と演説し、「ふたつのコリア」路線を明確に打ち出した。国内では1月第1週から「全員会議」についての説明や宣伝教化作業が集中的に行われていることが分かった。
北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)、両江道(リャンガンド)、平安北道(ピョンアンプクド)に住む協力者の報告を総合すると、すべての職場や学校、女性同盟や青年同盟などの社会団体で、毎土曜日に開かれる「生活総話」と呼ばれる行動反省会議の場と、金曜日の午後に労働党の方針についての学習が続いているという。
中央から降りてきた「学習堤綱」という指導文書を、行政や党の幹部が各組織に出向いて解説する他、住民たちに問答式の発表コンテストをさせている。企業では、朝の始業前の「読報」の時間にも学習させているという。両江道の恵山(ヘサン)市に住む協力者は、所属する女性同盟での宣伝教化の方法について、次のように伝えてきた。
「女性同盟では、班を作って暗記したことを通達する(発表する)競争をさせています。また、本人の思想と精神を反映させた決意文も一緒に書かかされるのですが、女性同盟の委員長や市の党組織から来た幹部らがそれ見て評価し順位を付けるのです。その週に優勝した人を表彰までするので大事です。覚えられない人は夜に勉強しなければならない。文字が読める人は全員やれという要求です。
女性同盟の学習会では、『どんな情勢の中でも党と祖国が求めればすぐ立ち上がるように万全の準備をしなければならない。我われは平和を望んでいるが戦う準備は整っている。対敵観念を正しく持たねばならない』と教育しています」
住民たちにとって「断韓政策」の公式化は唐突だったようだ。その受け止め方について、1月末に両江道の別の取材協力者に聞いた。
――金正恩氏は、南は同じ民族ではない、敵対国だと言いました。
こちらの人たちは急にそう言われて混乱していますね。文在寅(ムン·ジェイン)大統領がこちらに来て金正恩と白頭山にも行った時には(2018年9月に訪朝)、すぐにでも統一できるような雰囲気だったし、経済協力をたくさんするはずだったのに、韓国を敵だ、もはや同じ民族ではなく統一の相手でもないと言い出したので、私も少しびっくりしました。
昔、南朝鮮には物乞いが一杯いて抑圧されている、そんな南朝鮮人民を解放しようと教育を受けたのですが、現実には私たちより豊かに暮らしています。今さら何をどうやって解放するというのでしょうか。(南に対して)もう代案がないのでしょうね。
―――金正恩氏が大韓民国と呼んだが理由は何だと思いますか?
これまでずっと南朝鮮と呼んできたけれど、(正式国名を)大韓民国ではなく韓国だと思っていた人も多いのです。今後、南朝鮮に助けてもらうつもりは一切ないと判断したからではないでしょうか。
――金正恩氏は統一を放棄し、同族であること自体を否定し戦わなければならない対象だと規定しました。関連の動きがありますか?
今のところ戦争動員の準備と訓練にしっかり参加しろと要求されてますが、それ以外に特別なことはありません。
――当局はどのように説明していますか?
最近(1月末)の会議では、情勢講演と全世界覇権のための帝国主義者たちの策動についての講演をよくやります。何度も強調するのは、『我われはは敵対国に対しあまりにも緩みすぎて、安易に考えていた」「我われは敵のペースに乗らず、主導的に自主権を守るために努力しなければならない」ということです。1月20日にあった女性同盟の土曜学習には、恵山市の党宣伝部長が来て話しました。
――先代の首領である金日成、金正日が訴えてきた民族統一原則まで急いで破棄する理由は何でしょうか?
「対朝鮮制裁によって、我われは政策をまともに実行するのも難しい状況なので北南協力も難しい、それらは米国を相手に勝ってこそ可能だ。それまでは韓国は牽制しなければならない相手だ」と、幹部は話しました。
それから、「これまで我われは努力して、常に雅量を発揮して(韓国を)理解してやったのに、敵対国らはそれをチャンスとして、外部からは脅威を、内部では瓦解工作を絶えず進めてきた」と講演し、教養事業をしています。一言で言えば、「我われは敵に騙された。もう騙されてはならない」、このような内容を強調しているのです。
退廃的な韓国文化と弱肉強食の資本主義の世の中についても、しょっちゅう講演しています。1月20日の土曜学習では、資本主義に対する幻想は自分と家族を害する危険な考えだと、脱北した後にまた戻ってきた人々の体験を学習し、討論と個別的な(一人一人の)決意文を朗読させました。( 続く 2 >> )
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
<北朝鮮内部>韓国は敵だ…金正恩の「断韓」宣言後の国内動向とは(2) 何のための敵対政策? 北住民たちに考えを聞いてみた
北朝鮮国内で中国元の実勢交換レートが急騰している。2月7、8日に咸鏡北道(ハムギョンプクド)と両江道(リャンガンド)の非公式の外貨市場で調査したところ、1中国元が前週から10%超も高い1400ウォンに上がった。アジアプレスの調査では、1400ウォン台になったのは、2018年3月以来ほぼ6年ぶりのことだ。
調査した両江道に住む取材協力者は、10日からの旧正月直前の一時的な上昇の可能性はあるかもしれないとしながらも「国内の外貨不足が深刻なのが原因だと思う」と述べた。
金正恩政権は、昨年ゼロコロナ政策を撤廃して国境封鎖を緩和。中国との貿易はパンデミック前の2019年の水準近くまで回復した。一方で、昨年の対中貿易赤字は17億1161万ドルに膨らんだ(グラフ1参照)。
「貿易会社の外貨不足が深刻だ。中国に水産物や鉱物を売ってこそ利益になるのに、制裁のために簡単ではない。最近輸出されているのは『賃加工』品くらいだろう。それも材料を中国から先に輸入しなければならないので、先立つお金が要るのだ」
両江道の協力者はこのように現状を説明する。「賃加工」とは、中国から材料を輸入し加工して付加価値を高めたうえで輸出する形態のことで、かつらや付けまつげ、木工品などが最近の主なアイテムだ。
中国吉林省で長く北朝鮮貿易の仲介をしてきたビジネスマンは、アジアプレスの問い合わせに対し次のように述べた。
「昨年夏以降に豆満江側と恵山(ヘサン)市で貿易が再開されたが、最近は低調。北朝鮮の貿易会社にお金がないので、中国産品を売りたくてもできない。中国の貿易会社の意欲もすっかり低調になった」
両江道の協力者によれば、資金難に苦しむ両江道の貿易会社は、脱北して韓国や日本、米国に住む家族や親戚がいる家を訪ね、貿易資金への融資や共同投資を勧誘しているという。海外の親族から地下送金を受けているのを知っているのだ。保衛局(秘密警察)が韓国との繋がりを厳しく取り締まっているため、貿易会社の中には、資金を融通してくれた場合、入社させるなどして当局の調査が及びにくいよう便宜も図ってくれる会社もあるという。
現在北朝鮮の貿易は、輸出入する品目を国家が管理統制し、輸入した物品の国内流通もほとんどが国営流通機関で行っている。貿易会社の裁量はコロナ前と比べて大きく減じられた。ゼロコロナ政策が撤廃されて以降、貿易が活発なのは西海岸の新義州(シニジュ)と南浦(ナムポ)に限られており、地方都市の対中貿易は低調なままのようである。(カン・ジウォン)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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