![]() 【「越境攻撃は宣戦布告とみなす」トルコに警告したケマル・キルクーキ クルディスタン地域政府議会副議長】(撮影:坂本卓) |
イラク領内のPKKゲリラキャンプに対するトルコ軍の越境空爆問題が熱くなりはじめている。
12日、クルド地域議会のケマル・キルクーキ副議長は、記者たちを前に会見を開いた。
「わが領土に対するいかなる侵攻も、イラクへの宣戦布告とみなす」
PKKのゲリラキャンプ掃討名目であっても、イラク領そしてクルド地域領にトルコ軍が入れて攻撃を加えることを許さない、と改めてトルコに警告したのだ。キルクーキ氏から「宣戦布告」という言葉が出たのは、驚きだった。
キルクーキ氏は、PDK(クルディスタン民主党)の中央政治局員だ。90年後半、PKKとPDKが激しく衝突していた頃、ドホークのPDK代表を務めていた。キルクーク氏は、PKKを嫌悪してきた。PDKのペシュメルガ十数人がPKKゲリラに招待され、食事をふるまわれた後、集団で銃殺された事件や、自分がドイツで亡命生活を送っていた頃、PKKがドイツなどでトルコ系商店や企業を焼き討ちしたり襲撃するなど過激な行動を繰り返し、ヨーロッパでのクルド人の政治運動を台無しにした、というような話を私はいくつも聞かされた。
かつてPDKは、トルコと協定を結び、PKK拠点追撃のためにトルコ軍と共同軍事作戦までとってきた。こうした経緯があるにもかかわらず、このかんバルザニクルド地域大統領が、トルコ国内のクルド人政策に深く言及したり、キルクーキ氏のような地域政府高官から「宣戦布告」発言が繰り返されている。
「明日にも越境攻撃できる」と息巻くトルコ軍参謀総長をよそ目に、これまで地域政府幹部は比較的、冷静に対応してきたのだが、ここにきて強硬な発言が目立ち始めた。そして、地域政府政治家だけでなく、バグダッドのイラク政府高官やアラブ人政治家にもこれを後押しする姿勢を見せる者が出始めている。
通常、トルコ軍がPKK掃討作戦を開始するのは、山岳地帯の雪解けがはじまる春先から夏にかけてだ。トルコ側では掃討作戦ははじまっているが、ここで、トルコ側がイラク越境警告を繰り返し、緊張が高まっているのは、昨夏から、トルコ軍に多数の戦死者が出ていて、軍が我慢の限界にきているという見方もある。しかし地域政府高官は、5月に予定されるトルコ大統領選挙のための国内の政治問題と、キルクークのクルド編入妨害が目的であるのは明らかだ、としている。
事実、高官らがPKKとトルコ軍の越境問題について触れる際、必ずといっていいほど、キルクークへのトルコの干渉について触れるのを忘れない。
「トルコが私の故郷キルクークのクルディスタン編入に口出しするのは内政干渉だ。絶対に許さない」と語るキルクーキ氏。PKKとの苦い記憶は過去のものとし、いまこそクルドが団結してトルコの介入を阻止することが最優先、と考えているようだ。
イラク・クルディスタンの普通の人びとはこれまで、PKKに対しては悪いイメージか、またはほとんど詳しくは知らなかった。しかし、かつてないまでにイラクのクルド人にはPKKへの友好的感情が芽生えてきている。地域政府文化省はこれまで関係の薄かったPKK系の歌手らをイラク・クルディスタンに招待したり、PDK系テレビに登場させたり、数年前には考えられなかったことだ。
トルコ国内の非PKK系クルドメディアや知識人は、トルコのEU入りを望まない、軍を中心としたケマリスト勢力がPKKの過激な活動を誘発しているのではないか、そうすれば軍の存在意義を示せるからだ、という分析をしてきた。
しかし、最近の動きを見ていると、PKKの行動は、じつは地域政府の最大課題クルクーク問題とも深く連動してるのではないかと思えるようになってきた。
「必ず侵攻する」「越境は宣戦布告とみなす」と双方の過激な発言が飛び交うなか、PKKがトルコ・イラク国境衝突の引き金になるとは思わないが、今後、国境の情勢はさらに緊張するだろう。いま、PKKの運動をトルコ国内の運動だけと見るのではなく、イラク・クルディスタンの政治的動きと重ね合わせて見ていくことが重要になると感じている。
<<前 | 次>>
***********************************
イラク・トルコ・イラン・シリアにまたがるクルディスタン。分断民族クルド人とは。クルド問題とその他の地域も取材中(坂本卓/アジアプレス)




