第3回 拉致進展のために経済制裁に代わる政策を (2)
拉致被害者の家族の高齢化が進んでいる。
「家族会」の代表を辞することを表明した横田めぐみさんの父滋さんは、被害者の父親としては最年少だか、今年の11月で75歳になる。
神戸の有本恵子さんの両親は81歳と79歳だ。被害者家族にとっては、一刻の猶予もない状況になってきた。
日本政府は、有効ではなかった経済制裁とは別の、打開のための方策を考えねばならない時期に来ている。
![]() 【咸鏡北道の清津市の駅前でリヤカーの中で眠る男性。清津は拉致被害者が最初に連れて来られた都市だ。05年春 リ・ジュン撮影】 |
1.すべての生存拉致被害者の帰国
2.真相究明
3.犯人の引き渡し
4.補償
という、しごくまっとうなものであった。
だが、これを一挙に解決することは容易ではない。とりわけ(2)と(3)のハードルはあまりにも高い。
なぜなら、日本人拉致は、北朝鮮が国策として行ってきた対南秘密工作の一環であったからだ。
02年の小泉訪朝時、金正日総書記は
「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走って行った。自分は知らなかった」
と釈明したが、70ー80年代にかけて対南工作の総責任者の立場にあった金総書記が拉致を知らなかったはずはない。
だが、現最高指導者が外国人拉致を認知、把握、あるいは関与していたということは、北朝鮮が国家として、どうあっても認め難いことなのである。
結局のところ、金正日政権が変わらなければ日本側が求める「拉致問題の全面解決」はありえないとの結論が出てくる。
しかし、これでは、金正日政権を打倒するか、崩壊を待つ他なくなってしまう。これは北朝鮮にとって受け入れられるはずがないばかりか、日本政府が「打倒」を政策として採用することも、またありえないことである。金正日政権の崩壊がいつの日になるかは誰にもわからないことだ。
ならば、やはり、進展を望むなら協議をしなければならないのだ。
ここからは提言である。
被害者の両親の高齢化が進んでいることに鑑み、とにかく、被害者の帰国を最優先にするため、真相究明は次代に委ね、犯人引渡しについては放棄する。
これを、まず両国が確認した上で「再々調査」を日朝合同で始めるのだ。
![]() 著者 |
縦割り構造の極めて強い北朝鮮の組織にあって、拉致に関わった特殊機関は、外務省や労働党官僚の言うことなど聞かないからだ。
日本からは、警察を中心に拉致問題調査の特別チームを作り、そして北朝鮮側の特殊機関と「専門家同士」で、人命最優先を原則に交渉と調査をやる。
貧弱な死亡証拠では通用しないことは、今や北朝鮮にも分かっているはずだ。
日本の警察が関与することで、現時点でもっとも精度の高い結果が得られる可能性がある。この場合、犯行を担った特殊機関の責任は問わないことが確約されるという取引が必要になるだろう。北朝鮮にあっても、損することがわかっている案件を機関自らからまじめにやるはずはない。
この方法が原則的でない「妥協」であることははっきりしている。
しかし、生存者の帰国と家族との再会を最優先にする方針は、結局、世論も支持するだろうし、「膠着」を放置することで失われる時間を考えると、少しでも進展が望める「意味ある妥協」だと言えないだろうか。
事態を膠着状態から動かすためには、まず、発動した経済制裁から拉致を切り離すことが必要になってくるだろう。
核とミサイルに関連する国連決議に基づく制裁は、国際社会(国連安保理)が共同で決めた、北朝鮮の約束破りに対するペナルティである。それは国際社会との協調の中で取り扱いを決めればいい。
だが、拉致問題との関連では、核問題との分離をはっきりさせ、振り上げた拳をいったんは降ろす姿勢を見せる必要がある。
北朝鮮への強硬策=経済制裁が、これまで世論の多数から支持されてきたことは間違いないだろう。
それは不誠実な金正日政権への「怒り」、やられたらやり返せという「報復」、犯罪者を懲らしめよという「懲罰」の感情からきた世論であったと思う。
感情ではなく、論理的に経済制裁の有効性について疑問を呈したり、反対でもしようものなら、袋叩きに遭いそうな雰囲気が長く続いていてる。
だが、怒りの感情で政策が決まっていくのは怖い。感情は移ろいうるものである一方、一度採った政策は変更や後戻りが簡単ではないからだ。
拉致被害者家族の怒り、悲しみ、「さらに圧力を」という思いは十分理解できる。
だが、その思いを引き取り、本当に解決に有効な外交政策を立案するのが政治家の役目だ。
政治家はもちろん、それを論じるメディアは、経済制裁の必要性を主張するのであれば、その有効性を論理的に説明すべきだ。
翻って言えば、そうした主張をする人々は、経済制裁などで事態がさらに膠着した場合、被害者や家族に対して負うべき責任があることを、自覚しなければならない。
安倍前首相は、07年4月に開かれた拉致関連集会で
「すべての拉致被害者の帰国という解決に向け、具体的に進んでいると、われわれが確認できること」
を拉致問題の`進展`と定義づけた。
これは原則的で正しい定義づけだったと思う。
だが、`進展`のために、安倍は全く成果を上げることができずに退場することになった。
事態を膠着から`進展`に動かすために、対北朝鮮政策を変えていかなければならない時である。政権交代を機に、国会でも論壇でも感情ではなく、有効性に重きを置いた議論がなされることを期待したい。
(敬称略)
了





