第二章 ああ哀しき者よ、汝の名は「北朝鮮の女」

復刻連載「北のサラムたち1」第1回へ

嫁さんは北朝鮮の女

「俺も嫁さんもらいました」

これまでずっと、北朝鮮取材の手伝いをしてくれてきた中国朝鮮族(中国籍朝鮮人)青年のスンホが、国際電話で少し照れたような口調でそう言ったのは、2000年の晩秋のことだった。

「それはよかった。君はまじめな働き者だから、いつかいい人と巡り会えると思っていたよ。今時農村に嫁ごうという奇特な娘さんは珍しい。大切にしないとな。それで、相手はどんな人なんだい?」

私が訊くと、

「……それが、北朝鮮の女なんですよ」

とスンホは言った。

そうか、そういうことか。スンホの唐突な結婚話も、相手が「北朝鮮の女」と彼が言ったことで、私には納得ができたのである。

スンホは小柄で朴訥とした働き者の農村青年だ。この時33歳。外国人による北朝鮮関連取材という、中国に住む人間からしてみれば、あまり係わり合いになりたくないはずの仕事を、1年余り淡々と手伝ってくれた。

寡黙でまじめで欲がないスンホは、心から信頼している中国の友人の1人だった。誠実なスンホのことが私は好きだった。しかし、いいヤツだというだけでは簡単に結婚できないのが今の中国である。

中国東北地方の農村の「嫁不足」は実に深刻だ。都市部と農村の経済格差は年を追うごとに拡大し、現金収入を求めて男も女もどんどん都市部に出て行く。実入りの悪い農家に、親たちは娘を嫁がせようとはしない。30、40になっても独身の「老チョンガー」(老総角)がごろごろしている。スンホも適齢期になったというのに、まったくパートナーが見つかる当てがなかった。

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