nonaka012.jpg【孤独死予防に取り組む松戸市常盤平団地のようす】

先日、北京の友人から電話があり、「中国の都会では人と人のつながりが薄れて、困っている人がいても誰も関心を払わない」と少し湿った声で、いまの中国の風潮を嘆いていた。

例えば、地方から北京に出てきて財布をすられ、途方にくれている人がいたとしても、みんな「われ関せず」の態度をとるのだという。
その話を聞きながら、同僚の先生のエピソードを思い出した。
彼女は3年前、小学生の娘さんを連れて大分県から上京してきたのだが、路上で横になっているホームレスの男性を見た。

東京では「ありふれた」光景である。
だがそのとき、娘さんは立ち止まって、こうつぶやいたのだという。
「━━お母さん、あの人を助けなくていいの?」
都会で暮らす私たちにとって、ホームレスの人たちはもはや風景の一部でしかない。
「人」ではなくて「物」である。

いつから、そうなってしまったのだろうか。
1月初旬、まだ正月気分も覚めやらぬころ、松戸市(千葉県)の常盤平団地へ出かけた。
この団地は数年前から、「孤独死」の予防に取り組んでいる。

孤独死とは「ひとり誰にも看取られずに死を迎える」ことである。
この団地では2001年春、69歳の男性が死後3年たってから発見される、という出来事があった。
家賃が口座からの引き落としであったため、預金がなくなってから初めて、公団も異変に気づいたのだという。

3年もの間、この男性のことを気にかける人は誰もいなかった。
その後、似たような事件が相次いで起こり、住民たちは孤独死が常態化していることに衝撃を受けることになった。

松戸市(人口約48万人)だけでも、05年に孤独死した人の数は100人を超える。
最近は40代、50代の若年層も目立つようになってきた。
この問題を真正面から見据えていこうと立ち上がったのは、自治会長の中沢卓実さんや民生委員の大嶋愛子さん、坂井豊さんたちである。

最初は「うちの団地でこんなことが起こるなんて、恥ずかしい」というような気持ちもあり、孤独死を特別な出来事として考えていた。
しかし、現実は彼らの想像以上に深刻化していたのだった。
中沢さんたちは「まつど孤独死予防センター」を設立、地域ぐるみでこの課題の解決に向けて動き始めた。
「問題の根っこにあるのは、人間関係の希薄化や地域コミュニティーの崩壊、福祉行政のあり方など、いまの社会の矛盾そのものです」

常盤平団地は高度経済成長のはしりに建設された日本で最初の大規模団地だった。
入居の始まった1960年、「東洋一の団地」として応募者が殺到したという。
入居者の多くは都心の大企業に勤めるエリートサラリーマン層だった。
それから40数年の歳月が流れ、庶民の羨望の的だった「夢のニュータウン」は孤独死の現場として注目されるようになった。

現在、この団地でひとり暮らしをする65歳以上の高齢者の数は約650人。
このうち、いったい何人の人たちの孤独死を防ぐことができるのだろうか。
その問いにはいま誰も答えることができない。
(08年「世論時報」初出)