草食動物 (1)
筆者 チョン・ソンミ(キルスの母)
45歳。大学を卒業した彼女は放送作家が夢であった。去る99年3月に北朝鮮脱出。
「北朝鮮保衛部(情報機関)では私たち家族を逮捕するために懸賞金までかけているそうです」
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昔々、民族の輝かしい文化を花咲かせ、代々仲むつまじく暮らしてきた私の故郷、北朝鮮の小さな農村。
それが今日、私たちの村は、まるで世界中からけだものが集まったような村になってしまった。
年を追うごとにひどくなる食糧危機の残酷な現実の中、人間の理性を失ってしまった人たち。食べるために生きている人間たちの野生と化した生活。
花のような人生はどこかに行き、すべてを社会悪が支配する、獣の世界に転落してしまったのだろうか。

木の皮をはぐぼくのお母さん何も食べるものがなくなり、お母さんは山に木の皮をはぎに行きました ―ハンギル(キルスの兄)

木の皮をはぐぼくのお母さん何も食べるものがなくなり、お母さんは山に木の皮をはぎに行きました ―ハンギル(キルスの兄)

 

私の故郷は、人間の美しさと善良な心、高尚で文化的な言葉づかい、そんな貴いものをすべて失った村になってしまった。
しかしうれしい時、悲しい時に、ともに泣き、笑った私の親しい人たちのことが思い出される。
山野に青々とした、山菜の新緑が芽生える五月初め、家々ごとに感激の嘆声と歓喜の声がわきあがった。

「ねえ、今日、野原を見回っていたら、セットゥリ(苦菜:咸鏡道方言)の芽が出ていたよ」
「やっと助かった、助かったぞ」
「アイゴ、奴を見ろよ。あの世に行ったじいさんが戻ってきたよりも喜んでいるぞ」
「ははは」「ほほほほほ」

あちらこちらからもれ出てくる笑い声は、冷たく腐りかけていた皆の心に、生の喜びを抱かせてくれた。
丘に上がった「生活戦線」の闘士たちの姿を見てみよう。
腰を曲げて、よたよたとはうようにしている老人たち、若者たち、学校に行かなくてはならない子どもたち。皆、いっせいに約束したかのように野辺に白く群がっていた。

協同農場の幹部たちが、「村の会議をするから皆集まれ」と、いくらわあわあわめいても、こんなに早くから先を競って自発的に集まりはしなかった。  (つづく)
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gilsu_001cover_s「涙で描いた祖国 ~ 北朝鮮難民少年チャン・キルスの手記」CD-ROM版(2001年刊)をウェブ用に再編集して掲載しています。(文中のデータ等は、2001年刊行当時のままとしています)
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