生きる方法は脱出のみ [その3]
(文) リ・ドンハク [キルスの伯父・ファヨンの父]

全財産 「物乞いの子」 「一食でも食べられるよう、これを買ってください」わが家の全財産を闇市場で売りに出しました。売リ物といっても、こんな所帯道具しかありませんでした。 ―ハンギル(キルスの兄)

全財産
「物乞いの子」
「一食でも食べられるよう、これを買ってください」わが家の全財産を闇市場で売りに出しました。売リ物といっても、こんな所帯道具しかありませんでした。 ―ハンギル(キルスの兄)

 

私と家族全員が、3年間大切に抱いてきた、労務輸出で稼ぐというささやかな夢は、粉々になってしまった。夢が破れてしまった私は、罪責感でしばらくの間、虚脱状態から抜け出せなかった。

労働輸出対外労務、それは家族全員の希望であり願いであり、また家族全員の血と汗で作ろうとした夢でもあった。
[お前たちには人間の基本的な良心さえもない。誠実な人間を愚弄するお前たちが憎らしく、お前たちのような奴がはびこる社会が憎らしく、お前たちのような奴を柱としている社会が本当に憎らしい。ああ、お前たちと同じ空のもとでは生きてはいけない]北朝鮮という社会で生きていくのが、心底いやになってしまった。

しかし、だからといって家長である私は、いつまでも絶望と虚脱に落ち込んでいるわけにはいかなかった。労働輸出による夢は潰えても、明日のために妻と子どもたちは「生活戦線」で戦っているではないか。

「生活戦線」とは北朝鮮の辞書にもない言葉である。
食べ生き長らえるために、あれこれ努力することを「生活戦線」というのだ。
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