中国との思惑の一致
2010年に入り大々的に喧伝した北朝鮮の投資誘致計画も失敗に終わりつつある、と筆者は考える。「朝鮮大豊国際投資グループ(以下大豊グループ)」が誘致に成功した投資がどれほどあるのか、現段階で明らかになっているものは何もない(もちろん情報を隠しているだけの可能性もある)。

そんな中、今年6月以降、香港の特別行政区政府が国連決議1874号の履行徹底を求める米国に呼応し、「大豊グループ」とその関連企業の調査に乗り出すなどの動きを見せている。こうした動きを見る限り、今後も投資誘致には困難が待ち構えていると思わざるを得ない。香港は「大豊グループ」の拠点のひとつだが、"香港行政府は投資資金が北朝鮮政府に不正に流用される可能性があるとし、注視している"という。(※1)

前述したように北朝鮮は「現金=外貨」が欲しい。しかしながら投資、貿易、もしくは援助を期待できる周辺の韓国、日本とは、短期間のうちに関係が改善する兆しは見えない。また、哨戒艦「天安」沈没事件の犯人と見なされたことにより、国際社会からの経済的孤立をさらに深めているのが現状だ。

そうなるとやはり中国になる。中国は自国の経済発展、特に都市部に集中して移動する人々への住宅・生活インフラの整備などに多量の鉄を必要としている。2009年には全世界の鉄鉱石生産量16億トンの約40%にあたる、6億2800万トンの鉄鉱石を輸入した。今後も中国国内における鉄鉱石の需要は年々増加していくと見られている。中国は北朝鮮の鉄鉱石が欲しいのだ。

このように、中国と北朝鮮の思惑は一致する。そしてその中心に茂山鉱山があるのだ。

誰が豊かになっているのか?
以上見てきたように、朝中国境で進む「和坪鉄路」工事の背景には、北朝鮮、中国それぞれの茂山の「鉄」を「金(カネ)」にしたい思惑があるわけだが、今後の展開で注視していかなければならないポイントがいくつかある。

① 採掘権をはじめとする経営権の行方
鉱山の採掘権が北朝鮮と中国、どちらに帰属することになるのかは、茂山鉱山の今後を大きく左右する。北朝鮮は当然、採掘権を保持できる「合作(Contractual Joint Venture)」形態での中国の参加を求めるであろうが、中国は採掘権を手に入れられる「合営(Joint Venture)」を求めてくるものと思われる。中国は実際、アフリカ諸国をはじめとする世界各地の鉱山における採掘権の確保に急いでおり、茂山鉱山もその例外では無いと思われる。

また、鉱山運営にかかわる諸権限、例えば人事・労働管理などの行方も注目される。これを手に入れる場合、中国企業は鉱山運営に直接大きな力を持てるわけで、合理的かつ安定的な鉄鉱石輸入に拍車をかけることができる。北朝鮮にしてみれば、朝鮮労働党による労働者に対する統制権限を手放すことにつながるので避けたいところだろう。

だが今後も北朝鮮の経済難が続く場合、中国に一定の期間、運営を委託するようなことも考えられる。中国企業は海外鉱山の買収も積極的に進めており、茂山鉱山がどう扱われるのか注目される。
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